糖質を付加したリポゾームの調製とそれを用いた膜機能解析
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要約
糖脂質含有リポゾームを調製し、それに液胞膜のプロトンポンプを組み込んで再構成膜を構築した。これを用いてポンプ機能や膜流動性を解析し、糖脂質が膜の動的構造維持や膜機能の調節に重要な役割を果たしていることを明らかにした。
- 担当:食品総合研究所・生物機能開発部・分子情報解析研究室
- 代表連絡先:0298-38-8063
- 部会名:食品
- 専門:バイテク
- 対象:稲類、豆類
- 分類:研究
背景
植物細胞の原形質膜や液胞膜、葉緑体膜などには各々特徴的な糖脂質成分が含まれていることが知られているが、それらの機能は殆ど未解明である。生体膜は、その組成や構造が複雑なため、個々の糖脂質成分の機能を解析することは不可能に近い。
そこで、生体膜脂質の主成分であるリン脂質に糖脂質を添加したリポゾームを調製し、これに膜タンパク質を組み込んで機能を持った再構成膜系を構築し、この系を用いて糖脂質の植物液胞膜における役割を解析した。
成果の内容・特徴
- モヤシマメ胚軸細胞やイネ培養細胞からプロトンポンプ機能を有する液胞膜小胞を単離する方法を確立した。
- 液胞膜からプロトンポンプであるH+-ATPase(図1)およびH+-Pyrophosphataseを可溶化・精製した。
- 可溶化したH+-ATPaseおよびH+-Pyrophosphataseをリポゾームに組み込んでプロトン輸送機能を持った再構成膜系を構築し、ポンプ機能に対する膜脂質成分の影響を解析した。
- セレブロシドやジガラクトシルジアシルグリセリド(DGDG)などの糖脂質を含むリポゾームの膜流動性を蛍光偏光解消法やESRで測定し、これらの糖脂質が常温(25°C)では表面の流動性を低下させる一方、低温(5°C)では膜脂質層内部の流動性を増加させることを明らかにした(図2)
- 低温(5°C)に曝したイネ細胞の液胞膜では糖脂質の含有量が低下し、逆にリン脂質の量が増加することが認められた(表1)。
- 糖脂質は膜構造を安定化させる機能を有するが、多量に存在すると、膜脂質層のゲル化などの動的構造変化が生じてプロトンポンプ活性が低下することを明らかにした(図3)。
成果の活用面・留意点
液胞膜に豊富に存在する糖脂質が膜の動的構造や膜タンパク質の機能に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。一方、低温に曝したイネ細胞では糖脂質の相対的含量が低下することも明らかになり、糖脂質が低温下における植物細胞の膜機能変化に関与している可能性が示唆された。
具体的データ




その他
- 研究課題名:糖質を付加したリポゾームの調製とそれを用いての機能解析
- 予算区分:バイテク(糖質工学)
- 研究期間:平成8年度(平成3~8年)
- 研究担当者:中村善行、小林秀行、笠毛邦弘(現・生物研)
- 発表論文等:Modulation of the activity of purified tonoplast H+-ATPase from mungbean (Vigna radiata L.) hypocotyls by various lipids. Plant Cell Physiol. 34(3),1993.
Effects of cerebroside and cholesterol on the reconstitution of tonoplast H+-ATPase purified from mung bean (Vigna radiata L.) hypocotyls in liposomes. PlantCell Physiol. 35(4), 1994.
イネの生体膜と低温感受性 化学と生物 34巻 5号 1996.
Rapid reconstitution of tonoplast H+-translocating pyrophosphatase from culturedrice cells into liposomes. Plant Cell Physiol. 38(3), 1997.