有機溶媒可溶化リパーゼを用いた脂肪酸ー糖質複合体の調製

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要約

脂質分解酵素リパーゼを修飾して、非水系において、複合糖質(脂肪酸-糖質複合体)を合成するときの触媒として用いた。この有機溶媒可溶化リパーゼにより、単糖、二糖だけでなく、オリゴ糖や糖アルコールが効率よく、脂質でエステル化された。

  • 担当:食品総合研究所・食品理化学部・炭水化物研究室
  • 代表連絡先:0298-38-8132
  • 部会名:食品
  • 専門:食品
  • 対象:糖質
  • 分類:研究

背景

両親媒性の性質を持つ界面活性剤は、乳化剤や安定剤として、広く加工食品に利用されており、新規な特質を持ち、生物学的に安全に供給される界面活性剤の開発が必要になっている。本研究においては、食品に添加することの可能な新しい界面活性剤の生物学的な調製方法の確立を目的として、有機溶媒可溶化リパーゼを触媒とした複合糖質の合成について検討した。

成果の内容・特徴

  • 有機溶媒可溶化リパーゼの調製は、従来の方法に従って行った(図1)。得られた有機溶媒可溶化リパーゼ粉末を触媒として使用した。有機溶媒(主としてヘキサン)に、脂質であるラウリン酸と各種の糖を添加して、有機溶媒可溶化リパーゼを触媒として、糖のエステル化反応を行った。反応後、溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィーにて生成物を分離した。UV、RIで検出を行い、生成物の同定、定量を行った。また、NMR法によりエステル生成物の構造を決めた。
  • ヘキサン中において、有機溶媒可溶化リパーゼと未修飾リパーゼを触媒としたときのグルコースによるラウリン酸エステル(複合糖質)生成の経時変化を調べた(図2)。有機溶媒可溶化リパーゼを用いた場合、反応系にモレキュラシーブスを添加して、生成する水を積極的に取り除くことにより、90%以上のラウリン酸がエステルに変換した。一方、未修飾リパーゼを触媒とした場合には、複合糖質は全く生成されなかった。
  • 次に、エステル合成に適した溶媒に検討を行った(表1)。その結果、有機溶媒可溶化リパーゼは、n-ヘキサンの他に、n-オクタン、iso-オクタン、n-ドデカン、アセトニトリル等の溶媒中で高収率で、複合糖質を生成することがわかった。未修飾リパーゼを触媒とした場合には、複合糖質は全く生成されなかった。これは、有機溶媒による酵素の変性が原因と考えられる。
  • 有機溶媒可溶化リパーゼを用いて、ヘキサン中で各種の糖による複合糖質合成を検討した。その結果、グルコース以外にも各種の6単糖、5単糖、オリゴ糖によっても複合糖質が生成することがわかった(表2)。各複合糖質の生成率は、用いる糖により異なっていたが、かなり高い収率で複合糖質を合成することができた。

成果の活用面・留意点

  • 有機溶媒可溶化リパーゼを用いることにより、有機溶媒中で効率よく複合糖質(脂肪酸による糖エステル化物)を調製することが可能になった。
  • 合成された複合糖質は界面活性を有しており、本方法は食品加工への採用が期待される。
  • リパーゼの広い反応特性を利用して、脂肪酸以外の物質による糖エステル化物合成への応用が考えられる。
  • 本法による複合糖質の合成は、使用する糖によっては、複数複合糖質が生成する場合があるので、反応条件、精製法等の検討が必要である。

具体的データ

図1
図2
表1
表2

その他

  • 研究課題名:複合糖質の調製とその性質
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成9年度(平成4~9年)
  • 研究担当者:都築和香子、小林昭一(現理化学部長)
  • 発表論文等:特許特開平8-245680 都築和香子、小林昭一、W.Tsuzuki, S.Kobayashi and T.Suzuki, J. Am. Oil Chem. Soc. in press.