高濃度食塩存在下で分泌される酵母キラー因子前駆体
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要約
耐塩性酵母Pichia farinosaは、高濃度食塩(1M)を含むYPD培地で培養すると、培地中にキラー因子前駆体を分泌する。この前駆体の分泌現象は、翻訳後、培地中の食塩によって制御を受けている。
- 担当:食品総合研究所・応用微生物部・糸状菌研究室
- 代表連絡先:0298-38-8077
- 部会名:食品
- 専門:バイテク
- 対象:微生物
- 分類:研究
背景
ある種の酵母は、蛋白質性の毒素を分泌して他の酵母の生育を阻害する。この、酵母が生産し、酵母に特異的な毒素をキラー因子と呼んでいる。味噌麹から分離された耐塩性酵母Pichia farinosaもこの性質を有しており、分子量14,000のαβサブユニットからなるキラー因子SMKTを分泌する。p.farinosaは、高濃度食塩存在下YPD培地で培養するとSMKTの前駆体と思われる蛋白質を分泌する。1M以上の高濃度食塩存在下で生育可能な耐塩性酵母の蛋白質の分泌系は、解析の進んでいるSaccharomyces cerevisiaeとは異なることが予想されるため、この前駆体様蛋白質を精製し、アミノ酸配列を明らかにするとともに、転写、翻訳レベルにおける食塩の影響について検討する。
成果の内容・特徴
- P. farinosaを食塩を含むYPD培地で培養すると、抗βサブユニット抗体と結合する分子量26,000の蛋白質が培地中に分泌される(図1)。
- 精製された前駆体のN末端アミノ酸配列はSMKTのαサブユニットのN末端配列と同じである。また、酵素消化フラグメントから得られてたアミノ酸配列は、分泌型のSMKTには存在しない中間配列γおよびβサブユニットの一部に相当する(図2)。
- YPD、ソルビトール添加YPDおよび食塩添加YPDの各培養液において、キラー遺伝子SMK1の転写物はいずれも発現している。しかし前駆体の分泌は食塩存在下のみで検出される。ソルビトール存在下では細胞内に前駆体が蓄積しているにもかかわらず、分泌は認められない。したがって、高濃度食塩存在下での前駆体の分泌は、翻訳された前駆体の蓄積したものが単に漏出しているのではなく、培地中の食塩のシグナルにより前駆体を分泌させる何からの制御機構が存在する(図3)。
成果の活用面・留意点
耐塩性酵母の分泌機構と食塩との関係をさらに分子レベルで解析するとともに、P.farinosaの宿主ベクター系が構築できれば、食塩により制御可能な分泌発現系への応用が可能である。
具体的データ



その他
- 研究課題名:キラー因子前駆体のフォールディング及びプロセシング機構の解析
- 予算区分:フロンティア(リフォールド)
- 研究期間:平成10年度(平成8~10年)
- 研究担当者:鈴木チセ
- 発表論文等:Secretion of a protoxin post-translationally controlled by NaCl in a halotolerant yeast, Pichia farinosa. Yeast 15: 123-131 (1999).