パン酵母のストレス耐性に関する遺伝子情報データベース
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要約
本データベースは、パン酵母のストレス応答及び耐性機構に関するポストゲノム解析により取得された遺伝子発現・機能情報からなるデータベースである。酵母利用技術の高度化に資するため、インターネットにより一般に公開している。
- キーワード:パン酵母、ストレス、DNAマイクロアレイ、遺伝子破壊株コレクション
- 担当:食総研・微生物利用研究領域・酵母ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-8096
- 区分:食品試験研究
- 分類:研究・普及
背景・ねらい
パン酵母はパン生地の発酵に欠かすことの出来ない重要な食品素材である。パン酵母の生産や製パンの過程では、乾燥、冷凍及び高濃度ショ糖等の様々なストレスが酵母細胞に負荷されるため、パン酵母には高いストレス耐性が求められる。これらのストレスに対するパン酵母の応答及び耐性機構についての分子基盤となる情報をデータベース化し、ウェブサイト上で公開することによって、パン酵母の利用高度化研究を促進する。
成果の内容・特徴
- DNAマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析によって取得された、製パン過程における実用パン酵母の遺伝子発現情報を閲覧することが出来る。また、乾燥、冷凍及び高濃度ショ糖の各ストレスを負荷した実用パン酵母細胞における遺伝子発現情報についても閲覧可能である。これらの解析における実験条件及び実験データは、本データベースを介してダウンロード可能となっている。
- さらに、出芽酵母の遺伝子破壊株コレクションを解析ツールとした、ストレス感受性に関する網羅的表現型解析の結果を閲覧することが出来る。ここでの表現型解析とは、遺伝子欠損によってもたらされる表現型を全ゲノム網羅的に解析するものであり、本データベースの構築に際しては、乾燥、冷凍及び高濃度ショ糖の各ストレスに対する感受性を全ての遺伝子破壊株について評価している(図1)。本データベースを利用することによって、遺伝子機能とストレス耐性との関連についての有用な情報を取得することが可能である。例えば、乾燥、冷凍及び高濃度ショ糖の各ストレスに対して、それぞれ278、58、273遺伝子が耐性に不可欠であることを示す情報が得られる。これらの遺伝子中には、液胞型プロトンポンプに関連する遺伝子の多くが含まれていることから、液胞型プロトンポンプがストレス耐性において極めて重要な役割を担っていると考えることが出来る。
- 上述の遺伝子発現解析及び表現型解析によって得られた情報を整理して構築された本データベースは、「パン酵母遺伝子データベース」として食総研ホームページ上で公開されている(図2)。本データベースは、解析データのみならず、各解析の概要及び関連論文へのリンク等を含み、利便性を考慮した構成となっている。
成果の活用面・留意点
- 実用パン酵母の利用高度化という観点から、培養・発酵過程のモニタリング及びストレス耐性株の育種等を目的とした分子マーカーの構築や分子育種のための情報基盤としての活用が可能である。
- パン酵母等の真核細胞におけるストレス応答・耐性機構の解明のための情報基盤としての活用が期待される。
具体的データ


その他
- 研究課題名:バイオテクノロジーを利用した新食品素材の生産技術の開発及び生物機能の解明・利用
- 課題ID:313-e
- 予算区分:競争的資金(新技術・新分野)
- 研究期間:2006~2010年度
- 研究担当者:安藤 聡、中村敏英、島 純
- 発表論文等:1) Ando et al. (2007) FEMS Yeast Res. 7:244-253
2) Nakamura et al. (2008) J. Biosci. Bioeng. 106:405-408
3) Shima et al. (2008) Yeast 25:179-190