加熱による不飽和脂肪酸のトランス異性化機構

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要約

加熱油脂の酸化と関連した不飽和脂肪酸のトランス異性化は、酸素の窒素置換、抗酸化剤で抑制される。アレニウス解析から推定した、不飽和脂肪酸のシスラジカル分子種のトランス異性化の活性化エネルギーは、20-30kcalである。

  • キーワード:トランス脂肪酸、油脂、幾何異性化
  • 担当:食総研・食品素材科学研究領域・上席研究員
  • 代表連絡先:電話029-838-8074
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

食品に含まれるトランス脂肪酸の過剰摂取は、冠動脈性心疾患等の健康障害と関連があることが疫学的調査研究結果から指摘され、日本を始め各国で、トランス脂肪酸の摂取量低減化の動きが広がっている。トランス脂肪酸の主要な摂取源は、部分水素添加加工油脂(硬化油)、反芻動物由来の肉、乳製品、精製食用油脂であるが、トランス脂肪酸フリーの食餌をしたラットでも生体内に微量のトランス脂肪酸が蓄積すること、γ線照射により肉等のトランス脂肪酸が微増すること、調理加熱により食用油脂のトランス脂肪酸が微増することも報告されている。後者の場合のような生体内や食用油脂中の新たなトランス脂肪酸生成機構について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本研究においては、油脂を加熱することにより、不飽和脂肪酸の二重結合のトランス異性化反応を解析し、加熱、生体内等で生成するトランス脂肪酸生成メカニズムについて調べた。
  • 脂質は、加熱すると連鎖的酸化反応が進行する。窒素気流下の加熱や、各種の脂溶性抗酸化剤共存下の加熱により、油脂の連鎖的酸化反応は抑えられるが、このときトランス脂肪酸生成も抑制される(図1)。
  • このことは、不飽和脂肪酸の二重結合部分の炭素分子のラジカル化が、油脂の加熱によるトランス異性化に関与していることを示唆している。
  • 18:1シス型を脂肪酸側鎖に持つトリオレインと18:1トランス型を脂肪酸側鎖に有するトリエライジンを加熱すると、不飽和結合の幾何異性化が起こる。加熱温度に依存して、異性化速度も速くなるが、同じ加熱温度で比較すると、不飽和結合のシス型からトランス型への異性化速度は、トランス型からシス型への異性化速度より速い(図2)。
  • 各加熱温度におけるアレニウス解析から算出したシスラジカル分子種のトランス異性化のための活性化エネルギーは、20-30kcalである。この低い回転障壁エネルギー値が、油脂調理や生体内での微量なトランス脂肪酸生成に寄与すると推定される。

成果の活用面・留意点

  • 油脂加工、食品照射、脂質代謝系等の多岐の分野において、ラジカル形成を抑制するための酸素供給の遮断、抗酸化剤等の技術が、トランス脂肪酸の低減化にも役立つ。
  • 油脂の製造分野や食品調理過程において、油脂温度を厳密に制御することにより、トランス異性化も抑制できる。

具体的データ

図1.窒素気流下や各種の抗酸化剤を添加して180°Cで加熱したときのトリオレインのトランス異性化量

図2.トリオレイン(18:1cis)とトリエライジン(18:1trans)を各温度で4時間加熱したときの二重結合の幾何異性化速度

その他

  • 研究課題名:脂質の熱劣化と脂質構造との関連性の解明
  • 課題ID:323-f-01-001
  • 予算区分:受託研究
  • 研究期間:2009年度
  • 研究担当者:都築和香子、牛田かおり