麹菌の酸性アミノ酸特異的なアミノペプチダーゼ

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

麹菌のゲノム情報より新規アミノペプチダーゼ遺伝子を検出した。その高発現麹菌株を塩化コバルト添加培養することにより、菌体内から高比活性酵素を得ることができる。本酵素は、酸性アミノ酸特異的なアミノペプチダーゼである。

  • キーワード:麹菌、ゲノム情報、ポストゲノム、ペプチダーゼ
  • 担当:食総研・微生物利用研究領域・糸状菌ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8077
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

我が国の醸造食品製造に使用される麹菌は、醸造産業や酵素産業への利用が先行し、生物学的な解明が要望されていた中、2005年にゲノム情報が解明された(http://www.bio.nite.go.jp/dogan/MicroTop?GENOME_ID=ao)。醸造産業や酵素産業上重要な新規代謝関連酵素が多数見いだされ、ゲノム情報から麹菌が100種類以上の新規なタンパク質分解酵素遺伝子を保有していることが明らかになった。これらの新規酵素あるいは酵素高生産麹菌株の活用により、醸造食品の製造工程短縮化や、新規ペプチドの効率的生産技術の開発等が期待される。そこで、新規タンパク質分解酵素のうち、基質特異性の高いアミノペプチダーゼ(ペプチドのアミノ末端からアミノ酸を一つずつ遊離する酵素)に着目し、その高生産と精製、機能解明を行う。

成果の内容・特徴

  • 麹菌のゲノム情報から見出された新規アミノペプチダーゼ遺伝子の高発現麹菌株を作出、培養する。培養菌体を凍結粉砕し、緩衝液で抽出し、調製した無細胞抽出液から、アスパラギン酸-パラニトロアニリド(Asp-pNA)の分解活性を有する酵素を精製する。1 mM塩化コバルトを添加培地で高発現株を培養することにより、精製酵素の比活性を塩化コバルト無添加の場合の約20倍に高めることができる。
  • 精製酵素は、合成基質のうち、Asp-pNAとグルタミン酸-pNAのみを分解するので、本酵素は酸性アミノ酸特異的なアミノペプチダーゼ、アスパチルアミノペプチダーゼ(DAP)である。DAPはアミノ末端にアスパラギン酸を有するペプチド(アンジオテンシンII)からアスパラギン酸を遊離してアンジオテンシンIIIを生成し、それ以上分解が進まない。基質特異性が極めて高い(図1)。
  • 出芽酵母や哺乳類のDAPは合成基質をほとんど分解しないことが知られているが、麹菌のDAPは合成基質を分解できる点で、DAPとしては新しい特徴を有する。
  • 哺乳類のDAPと同様、環状ペプチドであるバシトラシンにより活性が上昇する(表1)。したがって、麹菌のDAPはペプチドにより活性の制御を受ける。
  • 酸性アミノ酸は、醸造食品の主要な呈味成分であり、麹菌DAPがペプチドから酸性アミノ酸を遊離することで、麹菌を用いた醸造食品の呈味形成に関わる可能性がある。

成果の活用面・留意点

  • 本酵素による醸造食品の呈味形成への関与解明や、ペプチド加工利用へのさらなる研究が必要である。

具体的データ

図1 精製酵素によるアンジオテンシンIIの経時的分解

表1 DAP活性に与える各種化学物質の影響

その他

  • 研究課題名:麹菌プロテアーゼ等の網羅的機能解析
  • 課題ID:313-e
  • 予算区分:新技術・新分野
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:楠本憲一、鈴木聡、柏木豊
  • 発表論文等:1)Kusumoto, K.-I., et al. (2008) J. Appl. Microbiol. 105(5), 1711-1719
                       2) 楠本憲一ら(2007)第59回日本生物工学会大会講演要旨集、162