果実の成熟を制御する転写因子

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要約

トマト果実の成熟を制御する転写因子RINは、(1)細胞内で核に局在、(2)特異的なDNA配列に結合、(3)ACC合成酵素遺伝子の転写を制御、(4)転写活性化機能を持つ、という特徴を持つ。rin変異により本転写因子は転写活性を失うことが変異体果実が成熟しない理由である。

  • キーワード:トマト、果実、成熟、転写因子、エチレン
  • 担当:食総研・食品バイオテクノロジー研究領域・生物機能制御ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8050
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

果実の品質に関わる成分量の決定には成熟過程が最も重要なステップとなる。果実は成熟期に入ると食品に適した味・風味に変化し始め果肉は軟化し、鮮やかな色素を蓄積する。したがって飛躍的な果実類の高品質化を目指すには、成熟制御に関する基礎的知見を十分に得ることが重要である。トマトには、成熟期の変化が全く起こらないrin変異体が存在する(図1)。この変異は転写因子RINをコードする遺伝子に生じている。RINは成熟の開始を制御しており、RINの分子機能に関する情報は、果実品質に関連する研究の推進・加速に有用である。

成果の内容・特徴

  • 果実の成熟制御に関わる転写因子RINの細胞内局在性を明らかにするためにRINとGFPの融合タンパク質を植物細胞で一過的に発現させたところ、核に蛍光が検出されるため、RINは核に局在するタンパク質である。(図2)。
  • RINは二量体を形成して特異的なDNA配列に結合し、その標的配列はCC(A/T)(A/T)(A/T)ATAGおよび類似の配列である。
  • 成熟果実細胞を用いたクロマチン免疫沈降法(ChIP)の試験結果(図3)より、RINはエチレン合成に関わるACC合成酵素遺伝子(LeACS2)のプロモーターに結合して遺伝子の発現を制御している。
  • RINは明確な転写活性化機能を持つタンパク質であり、その活性に重要な領域はC末端である(図4)。rin変異遺伝子はこのC末端の一部が欠失し、さらに別の遺伝子が融合しているタンパク質をコードしている。このタンパク質は転写活性化機能を失っており、このことがrin変異体が成熟しない理由であると推察される(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 食品として重要な果実の成熟過程を解明するにはRINから始まる転写制御機構解明が一つのブレークスルーとなり得る。
  • トマトのようなタイプの果実器官はモデル植物であるイネやシロイヌナズナの相当する器官の特徴と大きく異なるため、独自の情報の蓄積が更なる関連研究の発展に必要である。

具体的データ

図1 成熟制御転写因子 RINの rin変異により果実の成熟は完全に停止する。

図2 RIN と GFP 融合タンパク質の核局在性。

図3 RINは成熟果実中でACC合成酵素遺伝子のプロモーターに結合する。クロマチン免疫沈降法(ChIP)により回収したDNAのPCR結果。増幅領域はLeACS2のプロモーター領域。成熟果実ではRIN抗体を含む血清を用いたChIP-DNA(C)において標的領域が濃縮されるが、免疫前血清によるChIP-DNA(P)では全クロマチン(I)によるPCRと同等の低シグナル強度であり標的領域が濃縮されない。またRINが発現していない未熟果では標的領域は濃縮されない。

図4 RIN タンパク質における転写活性化ドメインの特定。RINはCドメインに転写活性化部位が存在し、rin変異(C未端の欠失とMCタンパク質の融合が生じている)により活性部位が失われる。

その他

  • 研究課題名:果実類の品質保持に関わる成熟制御因子の解析
  • 課題ID:313-c
  • 予算区分:科研費若手B、カゴメ受託研究、交付金
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:伊藤康博、北川麻美子(カゴメ)
  • 発表論文等:Ito, Kitagawa, Ihashi et al. (2008) Plant J. 55(2), 212-223