牛由来ベロ毒素産生性大腸菌の性状解明

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要約

牛由来ベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)の血清型及びベロ毒素(VT)型を 明らかにした。待定の血清型菌は,主に大腸粘膜に病変を形成し下痢を惹起し た。VTECは牛の下痢原性大腸菌である。

  • 担当:家畜衛生試験場九州支場第1研究室
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛
  • 分類:指導

背景・ねらい

牛の大腸菌性下痢の主要原因は毒素原性大腸菌(ETEC)であるが,近年,本菌感染症とは病状を異にするVTEC感染に起因する下痢が散発し,原因菌の諸性状の解明が求められている。一方,VTECはヒト腸管感染症の原因菌としても重要視されており,特に牛はその感染源として注目されている。そこで,牛由来大腸菌について,VTECの分布を調べ,血清型及びVT型を決定するとともに,実験感染により腸管病原性を検討した。

成果の内容・特徴

  • 生後2週齢から5カ月齢までの牛636頭の下痢便から非毒素原性大腸菌2,544株を分離し,Vero細胞法,抗VTモノクローナル抗体を用いた中和テスト及びPCR法によりVTECの検出及びVT型別を実施した。血清型別は常法に従った(表)。結果として,122頭(19.2%)由来249株(9.8%)が本菌と同定された。その血清型とVT型との関連は表に示すとおりであるが,05:H-,023:H-,026:H11,0111:H‐及び0124:H11が分離された症例では,主に大腸粘膜微絨毛の萎縮・消失や細胞質膜の異常形態(AE病変)が菌の付着部位に一致して認められ,本菌感染と下痢との関連が強く示唆された。一方,038:H21,091:H21,0103:H2,0111:H-,0113:H21,0145:H-,0153:H25,0157:H7などは,ヒトの症例からもしばしば分離される歯型及び毒素型をしており,ヒトの感染源として牛が密接に関与していることが推測された。
  • VTEC05:H‐の腸管病原性を検討するために,子ヤギを用いて経口投与実験を行った。その結果,子ヤギは感染約60時間後から粘液様下痢便を排泄し,以後120時間後まで持続した。病理組織検査により,投与菌は大腸粘膜に定着し(図1),その部位には典型的なAE病変(図2)が形成されていた。したがって,VTEC05:H-はattaching & effacing E.coli(AEEC)に属する牛の下痢原性大腸菌であると考察された。

成果の活用面・留意点

VTECが牛の下痢に関与することから,下痢の病原診断においては,本菌の存在を念頭に置いた検索が必須となった。また,牛はVTECを高率に保菌していることから,本菌を人畜共通の病原体と認識し,家畜衛生指導においては,環境汚染などに十分配慮する必要がある。

具体的データ

表1.牛由来VTECの血清型とVT型

 

図1.大腸粘膜に定着した大腸菌 図2.大腸粘膜に形成されたAE病変

 

その他

  • 研究課題名:細胞毒産生大腸菌の性状解明と病原性の検討
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成2年度~平成4年度
  • 研究担当者:中澤宗生・大宅辰夫・末吉益雄・播谷亮・片岡康
  • 発表論文等:
    1)日本細菌学雑誌,46(1),125(1991).
    2)感染症学雑誌,66(10),1383-1389(1992).