日本におけるマイコプラズマ性乳房炎の集団発生

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要約

日本では末確認であったMycoplasma bovigenitalium或いは Mycoplasma bovisによる牛乳房炎の集団発生を確認した。

  • 担当:家畜衛生試験場北海道支場第1研究室
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:乳用牛
  • 分類:指導

背景・ねらい

マイコプラズマ感染による牛乳房炎は高い伝染性と治療の困難性などから,本病が多発する酪農先進国では重要な疾病とされている。日本ではマイコプラズマ性乳房炎の存在そのものが十分に把握されていなかったが,今回その集団発生に遭遇したので実態解明を行った。

成果の内容・特徴

  • 牛のM.bovigenitaliumによる乳房炎の単発例が2牧場で,M.bovigenitalium或いはM.bovisによる集団発生がそれぞれ1牧場で認められ,日本でもマイコプラズマ性乳房炎の存在することが確認された。
  • M.bovigenitaliumによる集団発生(感染率:17.5%(40頭中7頭))はスタンチョンパイプライン方式の牛群に確認された。本発生は多数の牛に同一の調剤注入器を使用したことと関連があった。
  • M.bovisによる集団発生(初診時感染率:23.2%(164頭中38頭))はフリーストール・ミルキングパーラー方式の半群に確認された。38頭中16頭は潜在性乳房炎と診断され,そのうち2頭は後に臨床型に移行した。M.bovisによる臨床型乳房炎は分娩直後から泌乳最盛期にかけて多発する傾向が認められた。(図1)。本事例ではバルク乳からもM.bovisが分離された(図2)。
  • 化学療法(表1,2)は潜在性乳房炎には有効であったが,臨床型乳房炎には無効であった。
  • マイコプラズマ分離陽性牛の早期摘発・隔離と選別淘汰,選別乾乳,その他の搾乳,飼養衛生対策を組み合わせて実施することが本病防あつに有効であると推察された。

成果の活用面・留意点

日本においてもマイコプラズマ性乳房炎が存在し,特に多頭飼育酪農家においては集団で発生し,大きな被害をもたらすことが予想されるので,搾乳衛生対策には十分留意する必要がある。また,乳汁のマイコプラズマ検査体制の早急な確立が望まれる。

具体的データ

図1.分娩後日数と乳房炎型

 

図2.バルク乳からのM.bovis分離菌数の推移

 

表1.乳房炎乳汁由来M.bovisの最小発育阻止濃度(MIC)

 

表2.乳房炎乳汁由来M.bovigenitaliumの最小発育阻止濃度(MIC)

その他

  • 研究課題名:牛乳房炎におけるマイコプラズマの病原学的解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成5年度(平成3~5年)
  • 研究担当者:江口正志・西森敬・田中聖
  • 共同研究者:安里章(北海道NOSAI)・永井文紀(石狩地区NOSAI)・山口光雄(士幌町農協)
  • 発表論文等:
    1)平成2年度学会年次大会;日本産業動物獣医学会,p.64-65(1990).
    2)マイコプラズマ性乳房炎の集団発生事例,日本細菌学雑誌,46,628-629(1991).
    3)第112回日本獣医学会講演要旨集,p.112(1991).
    4)第61回日本細菌学会北海道支部学術総会講演要旨集,p.48-49(1993).
    5)第117回日本獣医学会講演要旨集,p.108(1994)
    6)第117回日本獣医学会講演要旨集,p.164(1994).
    7)家畜診療,第370号,p.9-14(1994).