黄体遺残牛における血液中の性ホルモンの推移と病因解明
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要約
牛の黄体遺残として,子宮腔内における少量の粘液の存在が黄体退行因子の生産を阻害しているものと考えられた。また,プロスタグランジンF2αの投与により遺残黄は急速に退行し,その後に排卵が起こった。
- 担当:家畜衛生試験場・研究第三部・保健衛生研究室
- 部会名:家畜衛生
- 専門:繁殖障害
- 対象:牛
- 分類:指導
背景・ねらい
妊娠していないにもかかわらず黄体が長く存続する黄体遺残は,無発情による交配の遅延から生産性を著しく阻害する。本症の原因としては,子宮における黄体退行因子の産生阻害,あるいは下垂体からの性腺刺激ホルモン分泌の異常が考えられている。しかし,その原因や病態については不明な点が多い。そこで,臨床的に子宮に異常が認められない牛の黄体遺残について,その病態を臨床病理学的に追究し,黄体遺残の原因の一端を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 黄体遺残牛では,血液中のプロジェステロン濃度は正常発情周期の黄体開花期と同程度の高値を長く持続することが明らかとなった(図1)。
- 黄体が遺残した発情周期の黄体期における黄体形成ホルモン(LH)の律動性放出頻度および血中LHの平均濃度は正常発情周期の黄体開花期と差がなく(1.57;0.53 vs 1.40;0.89:平均;SD回/8時間,1.25;0.62 vs 1.04;0.52ng/ml),LH分泌の異常は認められなかった。
- 直腸検査では子宮に異常を認めなかったが,診断的子宮洗浄において回収液中に帯白色半透明な粘液の存在が10例中7例に認められた。
- 排卵後37~55日に剖検した黄体遺残牛3例において,子宮腔内に少量(約2ml)・の帯白色半透明な粘液が認められた(表1)が,これらの子宮は組織学的検査から感染性の変化は認められなかった。
- プロスタグランジンF2α(PGF2α)投与により黄体は全11例で急激に退行し,そのうち9例では排卵が認められた(表2)。これらのことから,黄体遺残は性腺刺激ホルモンの分泌異常に起因するものではなく,子宮腔内に粘液が貯留して黄体退行因子の産生が阻害されることにより起こることが示唆された。
成果の活用面・留意点
臨床的に子宮に異常が認められない黄体遺残牛の病態を明らかにすることができ,これらの知見は黄体遺残の理解ならびに臨床診断および治療に活用されるものと期待される。
具体的データ



その他
- 研究課題名:牛における黄体遺残の病態解明
- 予算区分:経常研究
- 研究期間:平成5年度(平成3年度~平成5年度)
- 研究担当者:加茂前秀夫・岩村祥吉・吉岡耕治・谷口稔明・横木勇逸
- 発表論文等:
1)黄体遺残の牛における卵巣の変化および血液中のプロジェステロンとエストロジェンの推移,第114回日本獣医学会講演要旨集,p.255(1992).