処女地(離島)における牛流行熱の発生と流行様式の疫学的解明

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要約

1988年9月に鹿児島県種子島で初発した牛流行熱は,2か月半の期間に飼養頭数の13~21%,飼養農家数の40~55%に伝播した。その流行様式は,飼養頭数5頭以下の農家発生数はポアソン分布 (平均感染頭数0.811頭)に,10~20頭規模の農家内伝播はReed-Frostモデル(伝播率0.226)によくあてはまった。

  • 担当:家畜衛生試験場・総合診断研究部・疫学研究室
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:乳用牛,肉用牛
  • 分類:行政

背景・ねらい

離島における流行性疾病の発生と流行様式の疫学的解明には,伝染病の発生予察法とその防疫対策を確立する上で数多くの有益な情報を提供する。本研究は,1988年秋(9月末から11月中旬)にかけて鹿児島県種子島で発生した牛流行熱(Bovine epemeral fever)の発生と流行様式を記述するとともに,そのデータを理論疫学の立場から解析した。

成果の内容・特徴

  • 種子島に浸入した牛流行熱の流行には,少数地域での初発から本島の中・南部地区全体の発生に至るまで,約2か月を要した(図1)。
  • 中流行熱の初発から終息までの発生頭数の時間的推移は,10月下旬にピークをもつ正規分布であった(図2)。
  • 種子島で多数を占める飼養頭数5頭以下の農家における牛流行熱の農家発生数は,一定の時間と空間においてまれな事象がランダムに生じるいわゆるポアソン分布式によくあてはまった。この流行様式には,ワクチン接種など本病の伝播を抑制する要因が関与してなかったことが示されている(表1)。
  • 10~20頭を飼養する少数の農家内における本病の伝播は,伝染病流行理論式のひとつであるReed-Frostモデルによくあてはまり,そこではすべての飼養牛が感染した(表2)。

成果の活用面・留意点

牛流行熱は,媒介昆虫(ベクター)のカ,ヌカカによって伝播される。今回のようにワクチン接種などの防疫対策がとられておらず,しかもベクターの生存に有利な温暖な気候条件下にある処女地に突然侵入することで,本病は地域大流行となった。従って,本病発生の恐れのある西日本では事前のワクチン接種による予防対策が不可欠である。

具体的データ

図1.種子島における牛流行熱の発生地点のひろがり

図2.種子島における牛流行熱の日別発生頭数の分布

表1.5頭以下の飼養頭数農家における牛流行熱の農家のポアソン分布へのあてはめ

表2.牛流行熱の農家内伝播におけるReed-Frostモデル式へのあてはめ

その他

  • 研究課題名:アルボウイルスとベクターが関与する牛疾病群の発生予察法の開発
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成5年度(平成4年~平成8年度)
  • 研究担当者:小河孝
  • 発表論文等:
    Ogawa,T.and Fujisono,S.; Theoretical epidemiology on bovine ep-hemeral feverout‐btreaks in Tanegashima Island, Kagoshima Prefec-ture of Japan 1988. J. Vet. Med. Sci. 54(5): 923-929 (1992).