豚皮膚およびリンパ組織におけるIgEの免疫組織化学的証明

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要約

従来,豚の組織内IgEの検出はできなかったが,ヒトIgEε鎖に対する抗体を用い,免疫組織化学的に局在の証明が可能である事を明らかにした。アレルギー性炎症や免疫の関与する病態の形態学的解析に広く利用が可能であると考えられた。

  • 担当:家畜衛生試験場・生体防御研究部・免疫病理研究室
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:豚
  • 分類:研究

背景・ねらい

皮膚は単に外界と宿主を境界する「単なる皮」ではなく,様々な病原因子から生命を守る生体防御の第一線を担っている。ウイルス,細菌,真菌などの感染症に際して一次ないし二次的な特徴病変が皮膚に形成されるが,種々のアレルゲンの関与するアレルギー性炎症も重要な病理学的研究対象である。アレルギー反応に関与する免疫グロブリンの一種であるIgEについては,他のグロブリンに比べ微量なことから蛋白レベルの研究が遅れており,抗豚IgE抗体も得られていない。そこで,ヒトのIgEに対するポリクローナル抗体の豚IgEに対する交差反応性を組織レベルで検討するため,家畜衛生および公衆衛生上重要な皮膚疾患であるSarcoptes scabiei感染症(かい癬症)における組織中IgEの検出を試みた。

成果の内容・特徴

  • 一次抗体にヒトIgE抗体(DAKO社製:ε鎖特異的)ポリクローナル抗体,二次抗体にビオチン化抗ウサギ・マウス・ヤギ,マルチリンク豚抗体(DAKO社製)を用い,ストレプトアビジン・ビオチン免疫組織化学染色を実施した。
  • 膜にIgEレセプターを持つ肥満細胞にしばしば認められる非特異反応を抑制するために,一時抗体反応の前に組織のアビジンおよびD‐ビオチンによる非特異的反応阻害を行った。内因性ペルオキシダーゼ活性阻害は0.3%H2O2メタノールで行った。
  • S. scabiei感染豚の皮膚およびリンパ組織中のIgEの局在を上記免疫染色法で検索したところ,真皮およびリンパ組織内の肥満細胞の細胞膜上に強い陽性所見を認め,一部細胞質内にも認められた。これは肥満細胞のIgEレセプターに対する特異的結合と考えられた。
  • IgE陽性プラズマ細胞はリンパ節や脾臓に認められ,さらに皮膚真皮病変部にも集塊状に認められた。豚の皮膚におけるIgEの局在は本研究により初めて証明されたものである。

成果の活用面・留意点

アレルギー性の炎症や免疫機構の解明は家畜衛生上も基礎医学上も重要な課題である。豚IgEの納品や抗体が得られない現在,本法により豚の皮膚のIgEの局在が証明でき,IgE陽性細胞の動態が解析できることはアレルギー性炎症の研究推進上有効であるばかりでなく,IgEの関与するアレルギー性炎の診断にも利用されるものと期待される。

具体的データ

図1.重度の疥癬症感染豚における表皮の赤比と著しい肥厚

 

図2.表皮のS.scabiei寄生部における真皮乳頭層の肥満細胞

 

図3.耳下腺リンパ節におけるIgE陽性プラズマ細胞の局在

 

図4.真皮の肥満細胞の細胞膜表面に認められる抗IgE抗体陽性反応

 

その他

  • 研究課題名:細胞内寄生性微生物感染免疫の免疫病理学的解析
  • 予算区分:特別研究(MHCミニブタ)
  • 研究期間:平成5年度(平成5年度~平成8年度)
  • 研究担当者:百渓英一・松原豊
  • 発表論文等:1)豚かい癬症の皮膚とリンパ節におけるアレルギー反応の免疫病理
    第117回日本獣医学会講演要旨,p.109(1990).