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豚コレラウイルスの増殖及び診断に有用な細胞株を樹立した。本細胞は無血清培養液で増殖し,特有なドームを形成する。このドームの消失を指標に,安全かつ容易に豚コレラウイルスならびにその中和抗体価を測定することが可能となった。
豚コレラウイルス(CSFV;フラビウイルス科,ペスチウイルス属;+鎖RNAウイルス)は一般的に培養細胞に細胞変性効果(CPE)を示さないために,ウイルスにのアッセイにはEND法,干渉法,酵素免疫法及び蛍光抗体法等が用いられている。しかし,これらの方法は手技が煩雑であったり,強毒のCSFVやニューキャッスル病ウイルス等を必要とする。また,細胞培養に用いるほとんどの牛血清にはCSFVと共通抗原性を示す牛ウイルス性下痢ウイルスの抗体が存在し,抗体陰性血清の入手が困難となっている。これらの諸問題を解決するために,CSFVの新しい増殖・アッセイ系に必要な無血清培養液で増殖可能な細胞株を作出すると共に,ウイルスの検出及び野外抗体調査のための新しい中和試験法を確立する。
豚腎尿細管上皮細胞由来の株化細胞(SK-L細胞)を親細胞とし,継代時の培養液中の血清濃度を徐々に減少させ,最終的にイーグルMEMに0.5% Bacto Peptone (Difco)と0.295% Tryptose Phosphate Broth (Difco)を加えた無血清培養液で増殖可能な細胞株(FS-L 3細胞)を樹立した。さらに親細胞の特性であるドーム形成能及びCSFVに対する感受性は,無血清培養液で増殖可能なFS-L 3細胞においても同等であることが確認された(図1)。本細胞の染色体数は37,38を中心に分布しており,豚染色体上のPre Ι配列をプローブとしたドットブロットハイブリダイゼーションにより,本細胞は豚由来であることが確認され,さらにペスチウイルス,レトロウイルス,サイトメガロウイルス,サーコウイルス等の迷入がないことを確認した(表1)。本細胞に特徴的なドームはCSFVワクチン株(GPE-株)の感染増殖によって消失し(図2),このドームの消失を指標としてCSFVのウイルス価,ならびに中和抗体価の測定が可能となった。この新しい方法による測定結果は従来用いられてきたEND中和法の結果と高い相関性を示した(図3)。
FS-L 3細胞を用いたCSFVならびに中和抗体価の測定法は,野外におけるCSFVの抗体調査に用いることが可能である。また,本細胞は無血清で増殖し迷入ウイルスもないことから,ワクチン等の生物学的製剤の製造にも有用であると考えられる。