豚流行性下痢(PED)の免疫組織化学的診断

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要約

病理組織標本上において、酵素抗体法の一つであるStreptavidin-biotin(SAB)法を用いて豚伝染性胃腸炎(TGE)と豚流行性下痢(PED)の類症鑑別診断が可能であることを示した。

  • 担当:家畜衛生試験場九州支場第2研究室・第3研究室
  • 連絡先:099(268)2078
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:豚
  • 分類:普及

背景・ねらい

豚伝染性胃腸炎(TGE)及び豚流行性下痢(PED)は、豚コロナウイルスによる豚の伝染性下痢症で、臨床症状及び剖検所見による類症鑑別は困難である。原因ウイルスが分離され、有効なワクチンと診断法の確立したTGEに対して、PEDは原因ウイルスの分離が困難であり、現在、ワクチンのみならず、確立した診断法も開発されていない。1994年における約14,000頭の哺乳豚が死亡した重度の伝染性下痢の発生に際し、その消化管材料のホルマリン固定・パラフィン切片の組織標本について酵素抗体法の一つであるStreptavidin-biotin(SAB)法を用いて類症鑑別を試みた。なお、使用した抗血清は、TGEウイルス(TGEV)については(財)化学及血清療法研究所から、PEDウイルス(PEDV)については(財)日本生物科学研究所から入手した。

成果の内容・特徴

  • SAB法で、腸管粘膜上皮細胞内のPEDV抗原の検出が可能であった。
  • 特異抗血清を用いたSAB法によって、PEDはTGEと明確に鑑別することが可能であった(図1)。
  • PEDV抗原は空腸及び回腸粘膜に高率に検出され、次いで、十二指腸、盲腸及び結腸に検出された(図2)。
  • TGEV抗原は大腸粘膜に検出されないが、PEDV抗原は大腸粘膜にも認められた。
  • SAB法でPEDV抗原が検出された豚の腸管粘膜上皮細胞の薄切切片及び腸内容物の遠沈上清にコロナウイルス粒子が電子顕微鏡で認められた(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 通常のホルマリン固定・パラフィン切片による病理組織標本において、免疫組織化学的にPEDとTGEとの類症鑑別診断が可能である。
  • SAB法を用いることにより、下痢発症豚のホルマリン液中あるいはパラフィン包埋等の保存材料が診断あるいは原因の特定に使用できるので、過去の症例を検討することによって、PEDVの関与あるいはPEDの発生状況が明らかにできる。
  • 今後、PEDV分離法及びPEDの血清学的診断法の確立が望まれる。

具体的データ

図1.空腸粘膜上皮細胞におけるTGEV及びPEDV抗原の検出

 

図2.腸管上皮細胞のPEDV抗原の検出

 

図3.空腸内容物に認められたコロナウイルス粒子

 

その他

  • 研究課題名:豚流行性下痢の診断法の開発
  • 予算区分:経常(場内プロジェクト研究)
  • 研究期間:平成7年~平成8年
  • 発表論文等:
    • 第119回日本獣医学会講演要旨集,p.121(1995)
    • 日本豚病研究会会報,27:12-16(1995)
    • J.Comp.Pathol.,113:59-67(1995)