Pasteurella multocida の豚に対する病原性

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要約

Pasteurella multocida は子豚の多発性関節炎及び多発性漿膜炎の病原体の一つであることをノトバイオート豚及びコンベンショナル豚での感染試験により明らかにした。

  • 担当:家畜衛生試験場研究第一部細菌第1研究室
  • 連絡先:0298(38)7739
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:豚
  • 分類:指導

背景・ねらい

最近,わが国で集団発生した哺乳豚の多発性関節炎から,V因子要求性のP.multocidaが分離された。P.multocidaは,通常,発育にV因子(NAD)を要求しない。また,豚のP.multocida感染症として,萎縮性鼻炎(AR)及びパスツレラ性肺炎が良く知られている。しかし,P.multocidaによる豚の多発性関節炎についてはほとんど知られていない。そこで,P.multocidaV因子要求性株からV因子非要求性株を作出して,ノトバイオート豚及びコンベンショナル豚での感染試験を実施し,子豚に対する本菌の病原性を調べた。

成果の内容・特徴

  • V因子要求性P.multocidaMV1株(図1-1,表1)をNAD添加液体培地で2代継代した後,血液寒天培地で1代継代して,V因子非要求性のMV2株(図1-2,表1)を作出した。
  • ノトバイオート豚に対するMV1株とMV2株の病原性を調べた。MV1株またはMV2株接種豚に,共通して,多発性関節炎が認められた(図2-1,図2-2)。また,接種豚の一部に多発性漿膜炎,胸膜炎も認められた(表2)。接種菌は主として関節病巣から回収されたが、MV1株接種4週後に剖検した豚の関節病巣からは,V因子非要求性のP.multocida(MV3P株と命名)も分離された(図1-3,表1,2)。
  • MV1株とMV3P株の病原性をコンベンショナル豚での感染試験で調べた。MV1株またはMV3P株接種豚に,共通して,多発性漿膜炎が認められ(図3-1,表2),また,耐過豚の胸腔,肺臓及び腹腔には化膿巣も認められた(図3-2,表2)。
  • MV2株及びMV3P株の生化学的諸性状はP.multocida基準株と良く一致していた。MV1株,MV2株及びMV3P株の血清型はA:3型で,いずれもDNT(皮膚壊死毒素)を産生せず,3.0Kbのプラスミドを保有していた。これら3株はP.multocida基準株と高いDNA-DNA相同性値(88%)を示した。

成果の活用面・留意点

V因子要求性P.multocidaとグレーサ病(多発性漿膜炎・関節炎)の病原体であるHaemophilus parasuisの発育集落は衛星現象を示すなど類似点が多く,培養性状による両者の区別は難しい。従って,P.multocidaによる子豚の多発性関節炎及び多発性漿膜炎とグレーサ病との類症鑑別には注意を払う必要がある。豚での感染試験の成績から,P.multocidaはV因子要求性の有無に関わりなく子豚に多発性関節炎及び多発性漿膜炎を惹き起こすことが明らかにされたことから,P.multocidaによる子豚の多発性関節炎及び多発性漿膜炎について,野外調査を行う必要がある。

具体的データ

図1-1.MV1株の発育集落

 

表1.MV1株、MV2株、MV3P株、のNAD要求性

 

図1-2.MV2株の集落

 

図2-1.MV1株接種ノトバイオート豚に観察された肘関節病巣

 

図2-2.図2-1と同一豚に観察された股関節病巣

 

表2.P.multocida MV1株、MV2株,MV3P株の豚に対する病原性

 

図1-3.MV3P株の集落 図3-1.MV3P株接種豚に観察された腹膜炎

 

図3-2,図3-1と同一豚に観察された胸膜炎と胸腔膿瘍

 

その他

  • 研究課題名:Pasteurella multocidaの各種性状の比較
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成3年度~平成5年度
  • 発表論文等:
    • 第117回日本獣医学会講演要旨集, p.161 (1994)
    • Proceedings of the 13th International Pig Veterinary Society Congress. p. 160 (1994)
    • 日本獣医師会誌, 48: 841-844 (1995)
    • Abstracts of Papers, the 76th Conference of Research Workersin Animal Diseases, p. 95 (1995)