アフリカ豚コレラウイルス感染豚からのPCR法によるウイルス遺伝子の検出

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要約

アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)接種豚の血液並びに各種拭い液からPCR法を用いてウイルス遺伝子の検出を実施した。ASFVに特異的なチミジンキナーゼ(TK)の遺伝子の領域からプライマーを選択した結果、目的のPCR産物を上記材料から確認した。

  • 担当:家畜衛生試験場海外病研究部診断研究室
  • 連絡先:0423(21)1441
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:豚
  • 分類:指導

背景・ねらい

アフリカ豚コレラ(ASF)は,国際獣疫事務局(OIE)が最重要疾病として指定している豚の海外悪性伝染病である。現在,わが国にはASFの発生はないが,有効なワクチンがないため本病が侵入すると国内養豚業は壊滅的被害を受ける恐れがある。しかも,近年本病の病勢はウイルスの病原性の変化により多様化する傾向がありその防疫は一段と困難になっている。とくに、不顕性に経過する感染豚の感染初期の診断や汚染畜産物の摘発は現行の国際標準法では不充分である。そこで、不顕性感染豚並びに汚染畜産物の摘発手法を確立する目的でPCR法を用いた早期迅速診断法の開発を試み下記の成果を得た。

成果の内容・特徴

  • アフリカ豚コレラウイルス(ASF)のチミジンキナーゼ(TK)をコードする遺伝子には本ウイルスに特異な領域が存在する。この領域に対するプライマーを用いてPCRを試みた結果、目的とする遺伝子の増幅はASFVでのみ確認され、豚ヘルペス1型(PRV)、豚痘ウイルス(SPV)及び非感染細胞ではその増幅は認められなかった(図1)。
  • ASFV Lisbon'60株接種豚から経時的に採材した白血球材料からDNAを抽出してPCR法でウイルス遺伝子の検出を実施したところ、ウイルス接種1日目から目的とするPCR産物が確認された(図2)。
  • 同時にウイルス感染豚の鼻腔、咽頭並びに直腸拭い液からDNAを抽出して本PCR法を実施したところ、ウイルス感染後遅くとも2日目から目的のウイルス遺伝子が確認され、ウイルスの排泄は極めて早期に起こっていることが判明した。
  • さらに、4週間の接種豚観察期間中すべての材料からウイルス遺伝子が検出されたことから、抗体産生後も長期にわたりウイルスが排泄されていることが確認された。(図3)。
  • 血液並びに各種拭い液から培養細胞を用いてウイルス分離を試みた結果(表1)、血液を材料とした場合にはPCR法による遺伝子検出法とウイルス分離法では感度の点で大きな差は認められなかった。しかし、拭い液を材料とした場合には、PCR法による遺伝子検出法がウイルス分離法よりも極めて優れていた。

成果の活用面・留意点

ASFVのTK遺伝子を標的とするPCR法は、特異性、検出感度及び迅速性の点で従来のウイルス検出法に比べて極めて優れていることが判明した。血液材料からの検出が可能であることから、検疫時及び流行地における診断等に広く応用できると考えられる。しかし、畜産物中の汚染の摘発のためにはさらに検討する必要がある。

具体的データ

図1.ASFVのTK遺伝子を標的とするPCR法の特異性の検討

 

図2.ASFV接種豚の白血球を用いたPCR法による遺伝子断片の電気泳動

 

図3.ウイルス感染豚の各種拭いた液を用いたPCR法によるウイルス遺伝子の検出

 

表1.ASFV接種豚の各種材料からウイルス分離成績

 

その他

  • 研究課題名:アフリカ豚コレラの早期迅速診断の研究
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成5年度~平成7年度
  • 発表論文等:
    • 第119回日本獣医学会講演要旨集,p.125 (1995)
    • 第25回世界獣医大会講演要旨集,p.143 (1995)