牛及び豚GM-CSF遺伝子のクローニングとバキュロウイルス発現系による組換え型GM -CSFの生産

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要約

食菌・殺菌作用を担う細胞を活性化するGM-CSFのcDNAを牛及び豚のT細胞 のRNAを用いたRT-PCRでクローニングし、バキュロウイルス遺伝子発現系に組み込んで生物 活性の有る組換え型GM-CSFを効率よく生産した。これによって動物への接種実験が可能になっ た。

  • 担当:家畜衛生試験場製剤研究部製剤工学研究室
  • 連絡先:0298(38)7863
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛・豚
  • 分類:指導

背景・ねらい

複合感染病、日和見感染病、子豚や子牛牛の下痢と肺炎、泌乳牛の乳房炎など免疫調節能力の低下や免疫系の未発達が原因で起こる疾病による損耗を低減させるためにサイトカインを用いて免疫力を高め、あるいは適切な状態に維持することが期待される。しかし、それには質・量ともに充分なサイトカインを生産する必要がある。そこで、まず食菌・殺菌作用を担う細胞を活性化する顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の遺伝子を牛及び豚からクローニングし、バキュロウイルス遺伝子発現系を用いて組換え型GM-CSFを生産した。

成果の内容・特徴

  • 牛及び豚GM-CSFのcDNAクローニング
    牛GM-CSF遺伝子の塩基配列は既に報告されていたのでこれに従ってプライマーを合成し、ヒトヘマグルチニンPなどで刺激した牛T細胞株Th6のRNAを用いたRT-PCR法で分泌シグナルを含むGM-CSF前駆体のcDNAを増幅し、プラスミドにクローニングした。また豚GM-CSF遺伝子の塩基配列は報告されていなかったので、ヒトヘマグルチニンPなどで刺激したブタヘルパーT細胞株PP25のRNAを用い、牛GM-CSF遺伝子配列をもとにして設計したプライマーでRT-PCRを行った。この産物をプラスミドに挿入してライブラリーを作り、牛GM-CSF遺伝子をプローブとしたコロニーおよびサザンブロットハイブリダイゼーションを行って目的のクローンを選択し、塩基配列を決定した(図1)。
  • 組換え型GM-CSFの生産
    牛及び豚のGM-CSF前駆体のcDNAを組み込んだ遺伝子組換えバキュロウイルスを作出し、昆虫由来の細胞株Tn5に感染させて無血清培地で培養したところ、牛GM-CSFでは培養上清中に主に分子量約20kDaの組換え型GM-CSFが多量に蓄積し、17kDaのタンパク質も観察された(図2)。また豚GM-CSFでは分子量約21kDaのタンパク質が蓄積した。これらの発現産物のN-末端アミノ酸配列から、天然のものと同じ位置でシグナルペプチドが切断されていることがわかった(図3)。またその発現量は、牛GM-CSFが100~200mg/L、豚GM-CSFが約20mg/Lだった。これらの組換え型GM-CSFはどちらも骨髄細胞などの分化、増殖を誘導するなどの生物活性を示した(図4)。

成果の活用面・留意点

バキュロウイルス遺伝子発現系を用いて効率よく生物活性のある組換え型GM-CSFを生産することが可能になった。これによって牛あるいは豚を用いた動物実験が出来るようになった。今後生物活性の解析を進めると共に、大量かつ低コストで生産出来る手法の開発が必要である。

具体的データ

図1.豚GM-CSFのcDNA塩基及びアミノ酸配列

 

図2.組換え型牛GM-CSFの培地中への蓄積

 

図3.培養上清中に蓄積した組換え型牛GM-CSFのN-末端アミノ酸配列

 

図4.組換え型牛及び豚GM-CSFによる牛骨髄細胞の活性化

 

その他

  • 研究課題名:家畜のサイトカインの遺伝子発現技術の開発
  • 予算区分:大型別枠(生物情報)
  • 研究期間:平成6年度~9年度
  • 発表論文等:
    • Immunol. CellBiol., 73:474-476 (1995)
    • 第116回日本獣医学会講演要旨集, p.146 (1993)
    • 第117回日本獣医学会講演要旨集, p.149 (1994)
    • 第17回日本分子生物学会年会講演要旨集, p.418 (1994)
    • XXV Congress oft he World Veterinary Association ABSTRACTS,p.45 (1995)
    • XXV Congress of the World Veterinary Association ABSTRACTS,p.221 (1995)