脂肪肝牛のリポタンパク質では必須脂肪酸が減少している
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要約
脂肪肝牛では肝臓からのリポタンパク質分泌能が低下している。リポタンパク質の脂肪酸組成を調べたところ,リノール酸,エイコサトリエン酸(n-6)等の
必須脂肪酸 が正常牛に比べ減少していた。脂肪肝ではリポタンパク濃度が減少するだけではなく,脂肪酸組成も変化している事が明らかとなった。
- 担当:家畜衛生試験場企画連絡室衛生検査科・総合診断部生化学研究室
- 連絡先:0298(38)7812
- 部会名:家畜衛生
- 専門:診断予防
- 対象:乳用牛
- 分類:研究
背景・ねらい
脂肪肝牛では内分泌・免疫機能が低下しているため繁殖障害になり易く,また,昜感染性状態にあることが多い。これらの機能低下は,リポタンパク質分泌不全(例えば血中コレステロールが減少するため,黄体でのプロゲステロン産生量が低下する)に拠るとされているが,量的変化だけではなく,質的変化も機能低下に関与している可能性がある。そこでリポタンパク質の脂肪酸組成を調べた。
成果の内容・特徴
- 肝臓およびリポタンパク質より各脂質成分を分離し,ガスクロマトグラフィーとマススペクトロメトリーにより脂肪酸組成を調べた。
- 脂肪肝牛の血中遊離脂肪酸(NEFA)ではオレイン酸(n-9)が増加していた。血中NEFA濃度の増加は脂肪肝の主要な原因になるが,単にNEFA濃度が増加するだけではなく,NEFAの組成も変ることがわかった(図1)。
- 肝臓ではリン脂質の量および構成比に正常肝と脂肪肝で大きな違いはなかったが,脂肪肝のホスファチジルコリン(PC)ではオレイン酸が増え,必須脂肪酸であるリノール酸,エイコサトリエン酸(n-6)が減っていた(図2)。
- コレステロールはHDL(リポタンパク質の一種)で,PCから脂肪酸を供給され,コレステロールエステル(CE)になる。脂肪肝牛のHDLのPCでも肝PCと同様,オレイン酸が増え,リノール酸,エイコサトリエン酸が減少していた。
- HDLで出来たCEはLDLへ輸送される。LDL・CEの脂肪酸はHDL・PCより転移されるため,LDL・CEでも必須脂肪酸が減少していることが予想される。脂肪肝牛のLDL・CEの分析結果はリノール酸,エイコサトリエン酸の減少を示した(図3)。
- リノール酸,エイコサトリエン酸は多彩な生理作用を示すが,主要な生理作用のいくつかは,これら脂肪酸がプロスタグランジン(PG)へ転換して発揮される。PGの内分泌・免疫機能への関与は良く知られている。脂肪肝に起因する種々の疾病には,必須脂肪酸の供給不足によるPGの産生低下が関与していることが示唆された。
成果の活用面・留意点
本研究により,必須脂肪酸添加による脂肪肝の治療,予防の可能性が示唆された。
具体的データ



その他
- 研究課題名:脂肪肝牛のリポ蛋白質及びそのレセプター解析
- 予算区分:経常
- 研究期間:平成7年度~平成9年度
- 発表論文等:
- Am.J.Vet.Res.,56:1413-1417(1995)
- Vet.Res.commun.,19:343-351(1995)
- 第120回日本獣医学会講演要旨集,P.178(1995)