先天性無脾臓マウス(Dominant hemimelia)の特性解析

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要約

先天性無脾臓(Dh)マウスは、脾臓の欠損を主な特徴とする突然変異系マウスである。本研究では、集合キメラマウスを利用して脾臓や骨格形成に対するDh細胞の影響を解析した。

  • 担当:家畜衛生試験場生体防御研究部実験動物研究室
  • 連絡先:0298(38)7903
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:生体防御
  • 対象:実験動物
  • 分類:研究

背景・ねらい

Dhマウスは、単一遺伝子の突然変異により、脾臓を欠損するマウスである。Dh遺伝子のホモ個体(Dh/Dh)は、生後数日内に死亡する。へテロ個体(Dh/+)は、正常マウスに比べ、血中IgMや抗体産生能が低下し、その他消化器系・泌尿器系の内臓異常、および後肢の顕著な骨奇形などを示す。これらの異常の原因は、9.5日齢胚のsplanchnic mesoderm(臓側中胚葉)の正常な上皮様構造の欠陥にあると考えられ、このため、脾臓原基となるべき間葉細胞の集積が生じ得ないと想像されている。本研究では、これらの異常の発生におけるDh細胞の役割を明らかにするため、集合キメラマウスを用いてDh細胞と正常細胞との相互作用を検討した。

成果の内容・特徴

  • Dhマウス胚とC3H/He系あるいはC57BL/6系マウスの胚の間で集合キメラ胚を作成し、キメラマウス(Dh⇔C3HあるいはDh⇔C57BLと表す)を得た。腎臓のアイソザイム(peptidase-3)の表現型から、Dh/+またはDh/Dh胚由来と判定される25匹のキメラマウス(Dh⇔C3H 7匹とDh⇔C57BL 18匹)について検討し、次の成績を得た。
    Dh⇔C3Hの4匹に不完全な(図1)、Dh⇔C57BLの2匹に痕跡状の(図2)脾臓が形成された。いずれの脾臓も組織学的に正常であった。その他のキメラマウスには脾臓は形成されなかった。Dh⇔C3Hに形成された脾臓では、Dh胚由来細胞とC3H/He胚由来細胞とが、他の臓器に比べ同程度の割合(40*90%)で共存していた(表1)。また、脾臓の有無や大きさと正常細胞の割合の高さとは相関していなかった。以上は、Dhマウスの細胞は、脾臓の前駆体細胞としての機能を完全に失っているものではなく、正常細胞と共存した場合、脾臓を発生させ得ることを示している。
  • 骨格奇形の程度は、多くのキメラマウスで軽度になった。Dhマウスの後肢奇形は大腿骨から趾骨におよぶ低形成を基調とするが、キメラマウスでは殆どの場合、正常肢であるか、あるいは自脚第一趾の多趾、趾節骨過剰を示す過形成となる傾向が見られた。
  • Dh/Dhの致死性は救出され得た。

成果の活用面・留意点

脾臓の発生には不明な点が多く、Dhマウスと正常マウスのキメラマウスは、その解明のための有効な材料となりうる。Dhマウスは単一の遺伝子の突然変異が特定のリンパ系組織の障害をもたらす疾患モデルとして利用し得る。

具体的データ

図1.キメラマウスに形成された不完全な形状の脾臓。図2.キメラマウスに認められた痕跡上の脾臓。

 

表1.キメラマウスにおけるDh細胞の寄与割合

 

その他

  • 研究課題名:キメラ動物の解析によるミュータント系マウスの特性検索
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成5年度~平成8年度
  • 発表論文等:
    • 第88回日本畜産学会講演要旨集, p.217(1994)
    • Teratology 52:71-77(1995)