牛肝細胞初代培養法の確立とリポ蛋白代謝研究への応用
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要約
牛肝細胞の初代培養法を確立し、この細胞系が、周産期に多発する脂肪肝に関与するリポ蛋白質代謝研究へ応用できることを明らかにした。
- 担当:家畜衛生試験場北海道支場第2研究室
- 連絡先:011(851)5226
- 部会名:家畜衛生
- 専門:診断予防
- 対象:牛
- 分類:研究
背景・ねらい
周産期には脂肪肝が多発しており、これが繁殖障害や乳房炎発症の引き金になると考えられる。血液中の脂質成分の多くは肝臓からリポ蛋白質の形で分泌され各組織へ輸送されるが、牛の場合、脂肪肝発症におけるリポ蛋白質の役割についてはほとんど研究されていない。牛個体を用いたin vivo試験では、リポ蛋白質の血液レベルの変化を追うことはできても、その合成分泌に及ぼすホルモンなどの影響を直接調べることはできない。ラットにおいては初代培養肝細胞を用いたリポ蛋白質代謝研究が行われているが、牛では肝細胞の初代培養法は確立されていなかった。本研究では牛肝細胞の初代培養法を確立するとともに、初代培養細胞におけるアポリポ蛋白質A-I (Apo A-I)合成について検討した。
成果の内容・特徴
- 生後1週齢の子牛から得られた肝臓からコラゲナーゼ還流法によって肝実質細胞を分離し、ウィリアムズE培地を基本培地として培養を試みた。血清、ホルモン(インスリン;Ins、デキサメタゾン;Dex)が肝細胞の基本的機能(グルコース、尿素、アルブミン合成能)に及ぼす影響について検討したところ、各機能は、培養開始4時間後に無血清培地に交換した場合、24時間まで血清を含む培地で培養した場合に比べて低下した。この傾向は低ホルモン濃度で顕著であった(図1)。また、細胞を血清および10-7MのIns, Dexを含む培養液で24時間培養した場合、無血清培地に交換しても、肝細胞の形態および各種機能は1週間維持できることが確認された(図2)。実際の実験では無血清条件下で細胞を維持する必要があるが、今回の結果から、培養開始後24時間まで血清添加培地で培養した後、Ins, Dexを含む無血清培地に交換することにより、細胞の機能を長期に維持できると考えられる。
- 今回確立した初代培養肝細胞を用いてApo A-Iの合成分泌について検討した。SDS-PAGEおよび抗ウシApo A-I抗体を用いたウェスタンブロティング法により、肝細胞培養上清中にApo A-Iが同定された。また、無血清条件下で肝細胞上清のApo A-I濃度の経時的変化をみた結果、培養開始後24時間までほぼ直線的に増加した(図3)。肝細胞によるApo A-I合成は蛋白質合成阻害剤であるアクチノマイシンD、シクロヘキシミド(それぞれ0.1, 1.0, 10.0μg/ml)によって用量依存的に阻害された(図4)。これらの結果から、培養肝細胞は恒常的にApo A-Iを合成、分泌していることが確認された。
成果の活用面・留意点
牛肝細胞の初代培養法を確立し、この培養肝細胞がアポリポ蛋白質A-Iを恒常的に合成、分泌することが確認された。この手法は、脂肪肝発生機序解明のための有用な技術になると考えられる。
具体的データ




その他
- 研究課題名:細胞レベルでの牛脂肪肝及び乳房炎の病態解析
- 予算区分:経常
- 研究期間:平成3年度~7年度
- 発表論文等:
- 家畜生化学研究会報, 30: 57-64 (1993)
- 第120回日本獣医学会講演要旨集, p.47 (1995)