日本鹿の牛用ワクチンウイルスに対する反応性

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要約

日本鹿に対し,市販されている牛用のウイルスワクチンをそれぞれ1用量接種し,臨床症状を観察しながら,経時的に採血して,抗体価の測定を行った。その結 果,いずれのワクチン接種においても,臨床的な異常は認められなかった。また,牛伝染性鼻気管炎ウイルス以外の抗体は1回の接種で有意に上昇したが,牛伝 染性鼻気管炎ウイルスに対しては,2回接種によってのみ抗体の上昇と持続を認めた。

  • 担当:家畜衛生試験場東北支場第1研究室
  • 連絡先:0176(62)5115
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:鹿
  • 分類:研究

背景・ねらい

近年,中山間地において養鹿が試みられはじめている。また一方では,東北や北海道で増加している野生動物としての鹿の存在が注目されつつあり,中山間地域においては放牧牛との接触の頻度も増加していることから、東北地方に生息する日本鹿血清中の牛ウイルスに対する抗体を調査したところ,日本鹿においても多くの牛ウイルスに対する抗体が証明され、これらのウイルス感染が今後養鹿における主要な損耗要因となる危険性のあることが示唆された。そこでこのような感染症に対する予防策として,既存の牛用ウイルスワクチンが使用できるか否かを判断するための基礎資料を得る目的で、これらのワクチンウイルスに対する日本鹿の反応性について検討を加えた。

成果の内容・特徴

  • いずれのワクチン接種においても下痢や呼吸器症状等の臨床的な異常は認められなかった。
  • 牛伝染性鼻気管炎ウイルスに対する抗体は、1回の接種では上昇せず、2回接種後2週間目から4~8倍の抗体の上昇と持続を認めた(図1)。
  • アカバネウイルスに対する抗体は,ワクチン接種後2~4週間目に8~32倍の抗体が検出され,最高64倍を示した。また,抗体は12週間以上持続した。同居の2頭には抗体反応は認められなかった(図2)。
  • 牛伝染性下痢-粘膜病ウイルスに対する抗体は,2週間目に1頭,4週間目からは全頭に抗体価の上昇が認められ,8週間目にピークが認められた。その後も全ての鹿が16~256倍の抗体価を12間週以上維持した(図3)。
  • 牛パラインフルエンザウイルスに対する抗体は,その反応性に個体差が認められたが,いずれも2週間目より20倍以上の抗体価が検出され,5頭中3頭で12週間以上抗体が持続した(図4)。

成果の活用面・留意点

牛用ウイルスワクチンに対する日本鹿の反応性が明らかとなり、当該ワクチンの鹿における有用性を判断する基礎資料が得られた。

具体的データ

図1.牛伝染性鼻気管炎ワクチン接種後の中和抗体の推移

 

図2.アカバネ病ワクチン接種後の中和抗体価の推移

 

図3.牛伝染性下痢-粘膜病ワクチン接種後の中和抗体価の推移

 

図4.牛パラインフルエンザワクチン接種後の血球擬集抑制抗体価の推移

 

その他

  • 研究課題名:養鹿における損耗防止技術の開発
  • 予算区分:大型別枠「新需要」
  • 研究期間:平成3年度~平成12年度
  • 発表論文等:
    • 日本野生動物医学会誌, 1:38-41(1996)
    • Japan. Jpn J. Zoo Wildlife Med.,1:42-44(1996)