頭部腫脹症候群の病変の特徴と再現実験
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要約
頭部腫脹症候群の野外症例,実験感染例の成績より,本症は顔面皮下組織における大腸菌を主体とした細菌感染であることが明らかにされた。大腸菌が鼻粘膜などの上部呼吸器から侵入,増殖し,顔面皮下組織へ波及することが示唆された。
- 担当:家畜衛生試験場 病態研究部 非感染病理研究室
- 連絡先:0298(38)7843
- 部会名:家畜衛生
- 専門:診断予防
- 対象:鶏
- 分類:指導
背景・ねらい
頭部腫脹症候群(swollen head
syndrome)は鶏の頭部(特に目の周囲)の腫脹を特徴とする新しい疾病である。本病は種々の病原体の複合感染と飼育環境要因等により発病にいたる日
和見感染病と考えられている。細菌以外の病原因子としては七面鳥鼻気管炎(TRT)ウイルス,
伝染性気管支炎ウイルスおよび伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス等が疑われているが,病気の再現はできておらず,発病要因は明らかにされていない。そこ
で,ブロイラ-農場で臨床的に頭部腫脹症候群と診断されている疾病の病変の特徴と明らかにするとともに,さらに再現実験を行なうことにより,発病要因を検
討した。
成果の内容・特徴
- 野外例(岩手,茨城,徳島,鹿児島)では,(1)組織病変は,顔面の皮下組織の瀰漫性化膿性炎および肉芽腫性炎,頭部の骨の気室(air
space)炎,中耳炎,鼻炎,眼窩下洞炎,気管炎が特徴的であった。また,大腸菌性敗血症で特徴的な線維素化膿性心外膜炎および肝被膜炎,脾臓の線維素
滲出,肝臓の類洞の線維素血栓,全眼球炎もみらることもあった。(2)病変部から大腸菌,ブドウ球菌などが分離された。(3)気管からウイルスは分離され
なかったが,PCR法によって,気管においてTRTウイルスRNAが確認された(表1)。(4)血清学的には,TRTウイルス中和抗体が検出された
( 表1)。また,本病の発生したブロイラ-種鶏群の未発症鶏の気管材料からTRTウイルスを分離した。
- 再現実験では,(1)SPF鶏に異なった由来の大腸菌株を鼻粘膜下あるいは眼瞼皮下に接種したところ,菌株,接種経路を問わず,接種鶏の眼球周囲の皮下の腫脹がみられた(図1)。重度な症例では,下顎部皮下の腫脹もみられた。(2)大腸菌を接種された鶏の顔面皮下組織には,多数の細菌塊を伴う化膿性炎症がみられた。このほか,気室炎
(図2)および中耳炎,全眼球炎がみられた。(3)一方,SPF鶏にTRTウイルスおよび大腸菌(単独あるいは混合して)を点鼻あるいは結膜滴下した実験では,有意な肉眼および組織病変は確認されなかった。
成果の活用面・留意点
頭部腫脹症候群の病変の特徴が明らかなったので,今後の病理学的診断の指針となる。野外例,実験例より大腸菌が病変形成に密接に関与することが示唆され,大腸菌の皮下組織への侵入,増殖機構については今後検討する必要がある。
具体的データ



その他
- 研究課題名:頭部腫脹症候群の発病要因の解明
- 予算区分:経常(場内プロ)
- 研究期間:平成7年度~8年度
- 発表論文等:
1.真瀬昌司ら:第119回日本獣医学会講演要旨集, p.159(1995)
2.中村菊保ら:第120回日本獣医学会講演要旨集, p.81(1995)
3.真瀬昌司ら:第120回日本獣医学会講演要旨集, p.140(1995)
4.中村菊保ら:第121回日本獣医学会講演要旨集, p.90(1996)
5.Mase, M. et al. J. Vet. Med. Sci., 58:359-361(1996)
6.Nakamura,K. et al. Avian Pathol., 26:139-154(1997)