豚コレラウイルスのRT-PCR法による検出と牛ウイルス性下痢ウイルスとの識別

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要約

豚コレラウイルスをRT-PCR法により検出することが可能となった。さらに制限酵素切断片長多型解析法によって,同じペスチウイルスに属する牛ウイルス性下痢ウイルスとの識別が可能になった。

  • 担当:家畜衛生試験場 海外病研究部 免疫研究室
  • 連絡先:0423(21)1441
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:豚
  • 分類:研究

背景・ねらい

豚コレラウイルス(CSFV)は同じペスチウイルス属の牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV),めん羊のボーダー病ウイルス(BDV)と共通抗原を有す る。国内の野外分離株について血清学的性状の解析は行われてきたが,遺伝子工学的手法を用いたウイルス株の検出,分類は行われていない。CSFVの迅速な ウイルス検出法と簡便なBVDV,BDVとの識別法を確立するため,RT-PCR法を用いたウイルス遺伝子の検出と制限酵素切断片長多型解析を実施した。

成果の内容・特徴

CSFV, BVDVの野外株ならびにワクチン株の計58株から,常法に基づきRNAを抽出した。ペスチウイルス株間での保存性が高い非構造蛋白NS3領域のプライ マー(SA1, SA2),ならびに既報の5'非翻訳領域部分のプライマー(324, 326)と非構造蛋白NS5A領域のプライマー(HCV1, HCV2)を用いることによってRT-PCR法を行った。さらに5'非翻訳領域のPCR産物を用い,制限酵素切断片長多型(RFLP)解析法により CSFVとBVDVの分別を検討した。
5'非翻訳領域のプライマー(324, 326)を用いた場合,すべての検体について特異的なバンドが検出された。NS3領域のプライマー(SA1, SA2)ではBVDVの1検体以外はすべて特異的なバンドが検出された。NS5A領域のプライマー(HCV1, HCV2)についてはCSFVのみ検出可能であると報告されているが,今回の検体についてはCSFV22株のうち4株で特異的なバンドを検出できなかった (図1, 2)。
5'非翻訳領域のPCR産物を用いたRFLP法において,制限酵素Bgl IはCSFVのみ切断し,Pst I, Ava IはほとんどのCSFV, BVDVのPCR産物を切断した。またPst IはすべてのCSFVを切断し,酵素反応に使用するバッファーの至適条件から,Ava Iより有用であることがわかった(図3)。 以上のことから豚コレラウイルスの検出同定には,5'非翻訳領域のプライマー(324, 326)を用い,ペスチウイルスの検出を行った後,Pst IとBgl Iの二つの制限酵素で一度に切断することによってCSFVとBVDVの識別を行う方法が最も簡便で,優れていると考えられる(図4)。

成果の活用面・留意点

豚コレラウイルスを含むペスチウイルスの迅速診断法として用いることが可能である。さらに増幅された遺伝子断片の塩基配列の相同性をウイルス株間で比較することにより,分子系統樹解析を行うことが可能になる。

具体的データ

図1 RT-PCR法によるペスチウイルスの検出

図2 a)RT-PCR法により増幅される領域 b)各プライマーによるウイルス遺伝子の検出

図3 プライマー324、326により増幅された遺伝子断片の各制限酵素による切断

図4 PstI,BglI両酵素によるPCR産物の切断パターン

その他

  • 研究課題名:遺伝子工学的手法を用いたペスチウイルスの分子系統樹解析
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成8年度(平成8年度~平成11年度)
  • 発表論文等:
      1.第121回日本獣医学会講演要旨集,p.129(1996)
      2.中日禽畜疫病展望会講演要旨集,p.103-111(1996)