牛乳腺組織のストレス蛋白質(hsp90)の測定とその含量

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要約

牛乳腺組織より90kDaストレス蛋白質(hsp90)を精製し,それに対する特異抗血清を作出した。免疫ブロット法により,様々な泌乳ステージの乳腺組織のhsp90含量を測定し,hsp90は牛において乳腺分化関連蛋白質であることを示した。

  • 担当:家畜衛生試験場 北海道支場 臨床生化学研究室
  • 連絡先:011(851)5226
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

乳房炎の治癒・悪化の転機および潜在性乳房炎による乳量及び乳質の低下には,免疫機構の働きの良否とともに,血液・乳関門の機能的・物理的損傷が関与して いると考えられている。いっぽう細胞障害刺激に対して産生される,ストレス蛋白質と呼ばれる一群の蛋白質が知られている。今回はそのなかの主要な一 つ,90kDaストレス蛋白質(hsp90)の乳腺機能あるいは炎症との関連性やその特性を知る端緒として,hsp90を牛乳腺組織より精製し,それに対 する特異抗血清を用いた免疫ブロット法で妊娠前,泌乳,乾乳期の正常乳腺,および乾乳期乳房炎組織中のhsp90含量を測定した。

成果の内容・特徴

  • マウス抗ヒトhsp90モノクローナル抗体との交差反応を利用した免疫ブロッティングでモニターしながら,硫安分画,各種クロマトグラフィーおよび調整用SDS-PAGEを経て,乳腺組織よりhsp90を精製した(表1、図1)。
  • 精製されたhsp90をウサギに免疫し特異抗血清を得た(図1)。またこの抗血清を用いた免疫ブロッティングにおいて,基質の発色をデンシトメーターで測ることにより,hsp90の定量を行った。
  • 免疫ブロット法で妊娠前(処女),泌乳,乾乳期の正常乳腺組織および乾乳期乳房炎組織(黄色ブドウ球菌に起因)から得た細胞質画分の hsp90含量を測定した。結果として,正常組織では泌乳期において明らかにその濃度は高く,hsp90は乳腺の発育や泌乳機能に関連していると考えられ た(図2)。また,乾乳期の乳房炎組織は,同じ泌乳ステージの正常組織に比べhsp90の含有量が高い傾向もみられ,hsp90は炎症関連蛋白質である可能性も示唆された(図2)。

成果の活用面・留意点

乳腺組織の機能的成熟に対する障害と炎症反応や微生物との関わりは不明な点が多い。ストレス蛋白質群の,乳腺における動態や機能を知ることは,乳房炎における炎症反応と泌乳機能との関係を詳細に知るために有用と思われる。

具体的データ

表1 牛乳腺組織からのhsp90の精製過程

図1 抗hsp90血清を用いた免疫ブロッティング

図2 各泌乳ステージの乳腺組織のhsp90含量

その他

  • 研究課題名:炎症反応による乳腺上皮細胞機能の障害機構についての検討
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成8年度~平成10年度
  • 発表論文等:
    1.第120回日本獣医学会講演要旨集, p.50 (1995)
    2.J. Dairy Sci., (in press)