オーエスキー病ウイルスをベクターにしたラット神経成長因子の発現

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要約

培養細胞でのウイルス増殖をできなくしたオーエスキー病ウイルスベクターにラットの神経成長因子遺伝子を組み入れた。発現した神経成長因子は円形細胞であるPC12細胞を樹状細胞へと形態変化(神経細胞へ分化)させるという神経成長因子本来の役割を果たした。すなわち,本ウイルスベクターにより外来遺伝子を機能的に発現させることに成功した。

  • 担当:家畜衛生試験場 ウイルス病研究部 病原ウイルス研究室
  • 連絡先:0298-38-7763
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:家畜類
  • 分類:研究

背景・ねらい

オーエスキー病ウイルス(PrV)は宿主域が広く,豚,牛,馬など種々の動物種の培養細胞で細胞変性効果(細胞への病原性)を伴って増殖する。しか し,PrVはIE(早初期)遺伝子と呼ばれる一遺伝子を欠損させることで,この遺伝子に続く70以上のPrV遺伝子の発現が停止するため,細胞への病原性 が発揮されなくなる。IE遺伝子欠損PrVは種々の細胞に取り込まれ自分自身の遺伝子をその内部に導入できるが,IE遺伝子産物がないとウイルスの増殖は できない。細胞への遺伝子導入ベクターとして,この欠損型ウイルスに外来遺伝子を組み入れることにより,種々の細胞に高率に外来遺伝子を導入できる上,ベ クター自身は増殖しないために安全に外来遺伝子を発現することが期待できる。そこで,IE遺伝子欠損PrVにラットの神経成長因子(NGF)を組み入れ, その遺伝子が病原性を発揮しないで発現できるか,IE遺伝子欠損PrVのウイルスベクターとしての有用性を検討した。

成果の内容・特徴

  • ラットのNGF cDNA遺伝子(図)をIE遺伝子欠損PrV(AY321株)に導入し,その組換えウイルスをAY-rNGF株と名付けた。
  • AY-rNGF株はIE遺伝子を恒常的に発現させたVero細胞(V4V細胞)ではよく増殖できるが,通常のVero細胞やラット副腎 褐色細胞腫由来細胞(PC12細胞)などでの増殖はみられなかった。AY-rNGF株もIE遺伝子欠損PrV(AY1030株)同様にIE遺伝子産物の助 けがなければウイルス増殖できなかった(表)。
  • PC12細胞はNGFを培養液に添加することにより神経細胞様へ分化誘導でき,円形細胞から樹状細胞へ形態変化を起こすことが知られているが,AY-rNGF株感染PC12細胞はそのような形態変化はみられなかった。
  • AY-rNGF株を感染させた通常のVero細胞およびV4V細胞の培養液上清はPC12細胞の形態変化をもたらした(写真および表)。このことからウイルス増殖(細胞への病原性)の有無に拘わらず,AY-rNGF株が外来遺伝子のラットNGF遺伝子を機能的に発現できるとともに,PC12細胞の形態変化はNGFが細胞外から作用する必要があることが明らかとなった。

成果の活用面・留意点

IE遺伝子欠損型PrVはウイルスベクターとして有用であることが実証され,種々の外来遺伝子の発現に応用可能である。AY-rNGF株によって発現されたNGFは神経学的な研究に利用できる。

具体的データ

図 組み入れたラットのβー神経成長因子の遺伝子構造

表 ウイルスベクターによるPC12細胞の形態変化

写真 発現したラット神経成長因子のPC12細胞への作用

その他

  • 研究課題名:豚の向神経性ウイルスを利用した発現ベクターの開発
  • 予算区分:バイテク(動物ゲノム)
  • 研究期間:平成6年度~8年度
  • 発表論文等:
    1.Virology, 199:366-375 (1994)
    2.Virology, 202:491-495 (1994)
    3.第42回日本ウイルス学会総会演説抄録, p.179 (1994)
    4.第10回ヘルペスウイルス研究会プログラム抄録集, p.50 (1995)