アカバネウイルスS RNAの塩基配列と系統樹解析
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要約
アカバネウイルスOBE-1株のS
RNAの全塩基配列を決定し,核(N)蛋白の開始コドンと終止コドンを含むプライマーを合成した。これらのプライマーを用いて,アカバネウイルス日本分離
株20株とオーストラリア分離株2株のNコーディング領域を増幅し,塩基配列を決定した。得られた配列をもとに系統樹解析を行ったところ,オーストラリア
分離株は日本分離株と大きく異なっていた。また,日本分離株は2群に大別され,そのうちの1群である最近の分離株はさらに2つに分けられ,海外から侵入時
期を異にしたウイルスが定着している可能性が示された。
- 担当:家畜衛生試験場ウイルス病研究部上席研究官
- 連絡先:0298(38)7761
- 部会名:家畜衛生
- 専門:診断予防
- 対象:牛
- 分類:研究
背景・ねらい
アルボウイルスの感染環には,吸血昆虫が関与しているため,ウイルス間での遺伝子組換えと遺伝子の変異が頻繁に生じ,抗原性及び病原性の変異したウイルスが出現すると考えられている。本研究はアカバネウイルスの病原性を遺伝子構造上から解明することを通して,ウイルス遺伝子の変異と病原性の変化の関係を明らかとし,本ウイルスの防除法確立に資することを目的とする。
成果の内容・特徴
- OBE-1株 S RNA全塩基配列を決定し,既に報告しているアイノウイルスと比較した。その結果,73.5%の相同性を有していたが,5'非翻訳領域では55%と大きく異なっていた。
- 23の野外分離株(表1)のN蛋白コード領域全702塩基を比較したところ,N蛋白両末端部の配列はよく保存されており,変異はN蛋白C末端側に集中していた。
- 各野外株N蛋白領域の塩基配列および推定されるアミノ酸配列を比較したところ,塩基配列では日本分離株間で96.6%以上,日本とオーストラリア分離株間で93.0%以上,アミノ酸配列ではそれぞれ98.7%以上,97.0%以上と高い相同率が得られた。NSs蛋白領域においても同様に高い相同性が認められた。
- N蛋白コード領域の塩基配列に基づいて作成した分子系統樹(図1)から,オーストラリア分離株(グループIII)は早い時点で日本分離株と分岐していること,日本分離株はJaGAr39株,OBE-1株および最近の分離株を含むグループ(グループI)と1982年以降に分離された株の2グループに大別されることが示された。このグループはイリキウイルスを含む1984年鹿児島分離株(グループIIa)とその他の分離株(グループIIb)の2系統に分けられた。
成果の活用面・留意点
アカバネウイルス野外分離株の系統樹解析の結果,アカバネウイルス日本分離株は大きく2系統に分けられ,JaGAr39株以来国内で進化してきたウイルス株と,比較的最近侵入したウイルス株が混在している可能性が示された。したがって,恒常的な野外ウイルスの分離と,その抗原的および遺伝学的な性状の解析が,抗原性の変化した株による大流行を防止するためにも必要である。
具体的データ


その他
- 研究課題名:アカバネウイルスの遺伝子解析による抗原性変異の解明
- 予算区分:経常
- 研究期間:平成8年度~平成10年度(平成8年度で終了)
- 発表論文等:Sequence determination and phylogenetic analysis of the Akabane bunyavirus S RNA genome segment. J.Gen.Virol.78:2847-2851(1997)