牛初代培養肝細胞を用いた脂肪肝発生機序の解明

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要約

初代培養肝細胞を用いてアポリポ蛋白質 B-100および脂肪酸代謝について検討した。脂肪酸の添加によって肝細胞内のトリグリセリドが増加し,培地中へのapoB-100分泌は低下した。この結果は野外における脂肪肝牛の結果と一致していた。

  • 担当:家畜衛生試験場総合診断研究部生化学診断研究室
  • 連絡先:0298(38)7795
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

近年,乳用牛は遺伝的改良によって高能力化し,飼料等の飼養管理技術の向上と相まってその生産性はますます向上している。しかし一方で,ケトーシス,第四胃変位,産後起立不能症,繁殖障害などの生産病の発生も増加している。これらの産後疾病は,周産期に発生する脂肪肝と関連していることがよく知られている。本研究では脂肪肝発生機序を探るため,初代培養肝細胞を用いてin vitro における脂肪肝を再現するとともに,アポリポ蛋白質 B-100(apoB-100)および脂肪酸代謝について検討した。

成果の内容・特徴

  • 培養肝細胞のapoB の分泌形態について検討したところ,培養上清中には apoB-100 のみが検出され,apoB-48 は検出されなかった。また apoB-100 のほとんどすべてがリポタンパク質画分(d<1.21)に検出されることが超遠心分離法によって確認された(図1)。さらにゲル濾過(Superose 6)で分画したところ,そのほとんどが低密度リポ蛋白質(LDL)画分に局在していた。
  • 培地にオレイン酸(泌乳初期牛の血清遊離脂肪酸の主要な脂肪酸)を添加すると,肝細胞トリグリセライド(TG)は添加脂肪酸量依存性(0~200 mg/ml)に増加した。細胞中の脂肪蓄積は,組織学的(オイルレッド O染色)にも確認された。
  • 培養上清中の apoB-100 濃度はオレイン酸添加(25 mg/ml以上)により有意に減少した(図2)。培養液中の apoB-100と細胞中 TG は有意な負の相関を示した(図3)。
  • オレイン酸添加量50 mg/mlまでは,培養上清中のアルブミン濃度の低下および乳酸脱水素酵素(LDH)活性の上昇はみられず,肝機能は維持されているものと思われた。
  • 以上の実験結果から,肝臓からのapoB-100分泌は,脂肪酸の蓄積による明らかな機能障害が現れる以前に低下することが示唆された。この機序はまだ不明だが,apoB-100分泌の低下は周産期にみられる血清遊離脂肪酸濃度の増加に伴う血清 apoB-100の低下に対応しているものと思われる。

成果の活用面・留意点

牛初代培養肝細胞を用いて,in vitro での脂肪肝を再現することができた。今回確立した実験系は,脂肪肝の診断,防除法を開発する上で有用な実験系になる。

具体的データ

図1.肝細胞培養上清中のapoB存在形態の確認

 

図2.培地へのオイレン酸添加がapoB分泌に与える影響

 

図3.細胞内TG蓄積量とapoB分泌量との相関関係

 

その他

  • 研究課題名:脂肪肝牛のリポタンパク質及びそのレセプターの解析
  • 予算区分:経常研究
  • 研究期間:平成7年度~9年度