リーシュマニア原虫でのイヌのインターロイキン-8遺伝子の発現

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

マクロファージ内で増殖し,抗原提示および免疫誘導が可能で,さらに好中球を活性化しうる原虫生ワクチンを開発する基礎研究として,インターロイキン -8(IL-8)遺伝子導入リーシュマニア原虫を作製した。作製した遺伝子導入リーシュマニア原虫では生物学的活性を保持したイヌのIL-8が発現してい ることが確かめられた。

  • 担当:家畜衛生試験場細菌・寄生虫病研究部原虫病研究室
  • 連絡先:0298(38)7753
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:イヌ
  • 分類:研究

背景・ねらい

リーシュマニア症は熱帯から温帯にかけて世界的に広く分布するイヌおよびげっ歯類を主要な保虫宿主とする人獣共通感染症である。世界保健機関(WHO)は世界から撲滅すべき6大感染症の一つに本症を挙げその研究を強力に推進するよう推奨しているが,ワクチンを含む有効な予防法はまだ開発されていない。リーシュマニア症の浸淫地域である中央アジアや南米では,生活習慣の上からヒトと密接な関係を持つイヌが本症の主要な保虫宿主と考えられている。リーシュマニア原虫(Leishmania)は脊椎動物宿主体内ではマクロファージ内でのみ増殖が可能であり,好中球内では増殖することができない。しかし,病変部位には好中球の浸潤がほとんど見られず,好中球による原虫排除機構が有効に機能しているとは考えられない。これらのことから,本研究ではマクロファージ内で増殖し,抗原提示および免疫誘導が可能で,さらに好中球を活性化することができるワクチンとして,インターロイキン-8(IL-8)遺伝子導入リーシュマニア原虫を作製し,主要保虫宿主のイヌを対象に感染の拡大・拡散を防ぐことを目的とした。

成果の内容・特徴

  • イヌ膝窩リンパ節単核球由来のIL-8(CIL-8)遺伝子をリーシュマニア原虫に特異的な発現ベクター(P6.5)に発現方向および逆向きに挿入し,組換え体プラスミドP6.5-CIL8およびP6.5-CIL8Rを作製した。作製したプラスミドをエレクトロポレーション法でL. amazonensisのプロマスティゴートに導入し,ベクターのマーカーであるTunicamysin(TM)耐性遺伝子を利用してプラスミドを保有する原虫(transfectants)を選択した。得られたtransfectantsをTM80μg/ml添加TCM199培地で馴化した。
  • P6.5-CIL8を導入した原虫でCIL-8が発現していることが抗CIL-8モノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングで確認された。(図1)
  • 発現するCIL-8の生理活性を調べるため,ボイデンチャンバー法による好中球の遊走試験を行った。その結果,P6.5-CIL8 transfectants培養上清(TM不含)がイヌおよびマウス好中球の走化性を高めることが確かめられた。(図2)

成果の活用面・留意点

感染免疫が防御の主体となる原虫病では,原虫自体を運び手として目的とする抗原を本来の感染プロセスを通じて宿主に提示する技術がワクチン開発の鍵とされている。今回得られた成果は,原虫による外来遺伝子の発現とトランスジェニック原虫のワクチンとしての利用に向けての基礎データとなる。また,保虫宿主であるイヌに対するワクチン開発は,ヒトでの疾病対策としても有効である。

具体的データ

図1.トランスジェニックLeishmania原虫でのCIL-8の発現

図2.CIL-8遺伝子トランスジェニックLeishmania原虫培養上漬の好中球走化活性

その他

  • 研究課題名:トランスジェニック・リーシュマニア原虫を用いた生ワクチンの作製
  • 予算区分:文部省科学研究費(協力分担 東京大学・農学部・応用免疫学教室)
  • 研究期間:平成8年度~平成9年度
  • 発表論文等:
    • XIV International Congress for Tropical Medicine and Malaria, P.234 (1996)
    • Gene, 196: 49-59 (1997)