自家蛍光観察法による豚鞭虫含子虫卵の生死判定

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要約

生きている豚鞭虫含子虫卵を蛍光顕微鏡で観察すると,内部の数個の顆粒が自家蛍光を放つことを見いだした。この自家蛍光の有無の観察によって,生物顕微鏡では判別困難な豚鞭虫含子虫卵の生死判定が可能となった。これにより,オガクズ敷料の安全性が容易にチェックできるようになった。

  • 担当:家畜衛生試験場 細菌・寄生虫病研究部 主研 / 企画連絡室 衛生検査科
  • 連絡先:0298(38)7792
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:豚
  • 分類:普及

背景・ねらい

発酵オガクズ豚舎は,寄生虫卵を含む排泄物混合敷料が豚舎内に長期間累積され,またこの敷料を豚が好んで食べることから,豚鞭虫の重度感染による死亡事故が問題である。直接の感染源は豚鞭虫含卵子虫卵であるため,オガクズ敷料中に本虫卵が存在すれば,予防上その敷料は廃棄しなければならない。しかし,希に含卵子虫卵が検出されても豚が発症しない農場に遭遇する。この原因として,通常の顕微鏡観察下で異常を確認できない発酵熱等による死滅虫卵の存在を考えた。豚鞭虫含子虫卵の生死の簡易判定方法が開発できれば,オガクズ敷料の安全性がより正しく容易にチェックできる。

成果の内容・特徴

  • 生きている豚鞭虫含子虫卵内における粒状の自家蛍光の存在:定法による培養(33°C, 1か月間)によって得た新鮮な豚鞭虫含子虫卵を蛍光顕微鏡で観察すると,内部に数個の顆粒が自家蛍光を放つことを見いだした(図1)。このような虫卵を56°C30分加熱し殺滅すると,生物顕微鏡下では形態学的変化を認めないが,自家蛍光は消失した。
  • 保存による生死不明の豚鞭虫含子虫卵の生物顕微鏡と蛍光顕微鏡による観察:4°Cで1年間保存した豚鞭虫卵30個を,2人の術者が別々に観察した。一人は寄生虫検査に熟練した者で,倍率200倍の光学顕微鏡下で観察し,内部の顆粒の空胞化の有無を精査した。僅かでも空胞化した虫卵は,経験的に死滅虫卵とみなされる。一方,もう一人の術者は,同一虫卵を400倍の蛍光顕微鏡下で自家蛍の有無を観察した。 空胞化なしの生存?虫卵は全て自家蛍光を認めた (14/14)が,空胞化ありの死滅虫卵にはほとんど自家蛍光を認めなかった(3/16)。この結果から自家蛍光の存否により,豚鞭虫含子虫卵の生死判定が可能であることが示唆された。

成果の活用面・留意点

    蛍光顕微での自家蛍光観察によって,一般的な顕微鏡観察では識別できない豚鞭虫含子虫卵の生死判定が可能となり,オガクズ敷料の安全性のチェックが容易になった。

具体的データ

図1 生きている豚鞭虫含子虫卵の生物顕微鏡観察(左)と蛍光顕微鏡観察での自家蛍光(右)

 

その他

  • 研究課題名:敷料中の家畜寄生虫卵の動態解明と排除技術の開発
  • 予算区分:総合的開発研究(家畜排泄物)
  • 研究期間:平成6年度~11年度
  • 発表論文等:
      1.安藤義路ほか, 鶏病研究会報, 30 : 199-208 (1994)
      2.Bonita, R. and Taira,N., Vet. Parasitol., 67 : 269-273 (1996)