乳頭炎発症牛からのパラポックスウイルスの分離と抗体調査

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要約

搾乳牛に乳頭炎が発生し,膿疱からパラポックスウイルスが分離された。分離ウイルスを抗原に用いた寒天ゲル内沈降試験により関東地方の牛について疫学調査を行った結果,50%以上が抗体陽性で,年齢とともに陽性率が増加していた。

  • 担当:家畜衛生試験場 ウイルス病研究部 ウイルス生態研究室
  • 連絡先:0298(38)7841
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:乳用牛
  • 分類:指導

背景・ねらい

最近,日本各地の乳牛に乳頭炎が散発的に発生し,畜産農家に経済的被害を与えている。牛の乳頭炎は様々な原因で起こるが,その発生状況からウイルス性疾病と思われる症例が多い。これらの乳頭炎について,病因の解明とともに,特異的な迅速診断法の開発が求められている。また,海外悪性伝染病の中には,乳頭や 口周辺に水疱や潰瘍を形成する類似した症状の疾病があるため,それらとの類症鑑別を正確に行う必要がある。

成果の内容・特徴

  • 関東地方の一農家で搾乳牛の乳頭に円形ないし楕円形の白色結節または潰瘍が生ずる疾病の発生があった。発症牛の乳頭病変部から牛胎児筋肉培養細胞に細胞変性効果を起こすウイルスが分離され,理化学的性状及び電子顕微鏡による観察からパラポックスウイルスであることが確認された(写真1)。
  • 分離ウイルスは寒天ゲル内沈降試験により,今までに国内で分離されている牛由来のパラポックスウイルス3株と共通沈降線を形成した(写真2)。
  • 分離ウイルスを抗原に用いた寒天ゲル内沈降試験により関東地方三県の牛について疫学調査を行った結果,50%以上が抗体陽性で,年齢とともに陽性率が増加した。
  • その他の家畜の抗体保有状況を調べた結果,陽性率は羊で80%,豚,馬はすべて陰性であった。

成果の活用面・留意点

    日本国内の牛は既にパラポックスウイルスに高率に感染していることが示唆された。本ウイルスの感染を受けた牛は不顕性感染で終わる場合が多いが,初産牛や免疫能が低下した牛では,乳頭や口周辺に結節や水疱を発症し,再発する傾向がある。本ウイルスによると思われる乳頭炎の発症報告は最近拡大している傾向が ある。国内では,牛,羊,ニホンカモシカの乳頭や口唇およびその周辺に発症した膿胞性皮膚炎からパラポックスウイルスが分離されているが,これらウイルスの異同は明らかでない。野生動物を含めた本ウイルスの生態系を解明していく必要がある。

具体的データ

写真1 分離されたパラポックスウイルス

写真2 寒天ゲル内沈降試験による抗原性の比較

その他

  • 研究課題名:病性鑑定業務
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成9~10年
  • 発表論文等:
      1.An epidemic of parapoxvirus infection among cattle: isolation and antibody survey, J. Vet. Med. Sci. 61:749-753(1999)
      2.牛乳頭炎からの Parapoxvirus 分離および抗体調査。第126回日本獣医学会講演要旨集,p.224 (1998)