生菌製剤投与による腸管出血性大腸菌O157保菌牛の排菌阻止

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要約

成牛の糞便から分離した乳酸産生菌2株を製剤化し,腸管出血性大腸菌O157を実験感染させた保菌牛に経口投与したところ,排菌が完全に阻止された。ヒトの食中毒の直接または間接の感染源とされるO157保菌牛の清浄化技術を開発した。

  • 担当:家畜衛生試験場 九州支場 臨床細菌研究室
  • 連絡先:099(268)2078
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:治療
  • 対象:牛
  • 分類:指導

背景・ねらい

1996年の学校給食を介しての腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒事件以降,本菌による食中毒は全国的に発生しており,大きな社会問題となっている。1982年の米国での初発生以来,家畜,特に牛の糞便あるいは糞便に汚染されたと思われる牛肉,食品が,ヒトへの感染源として重要視されている。国内における牛のO157保菌率調査でも,飼養牛の0.62%,と畜場搬入牛の1.4%が保菌し,枝肉の汚染率は0.3%と報告されており,牛でのO157保 菌化機構の解明と清浄化技術の確立が急務となっている。

成果の内容・特徴

    大腸菌O157保菌牛の排菌抑制を目的とした生菌製剤の開発を試みた。従来よりヒトあるいは動物の消化器機能の改善に有用として知られている乳酸産生性菌群に着目し,成牛及び子牛糞便中の乳酸産生菌を検索・比較した。その過程で,成牛で優勢な乳酸産生菌種であり旺盛な酸産生能を有し,大量培養が容易なStreptococcus bovis LCB6株及びLactobacillus gallinarum LCB12株を選択し,O157実験感染牛への経口投与による排菌抑制試験を実施した。実験感染にはE. coli MN157株(O157:H7, VT2産生)から誘導したナリジクス酸,リファンピシン両剤耐性株を用いた。排菌の追跡には,両薬剤を添加したソルビトールマッコンキー寒天培地とmEC 培地を増菌培地としたMPN法を併用した。MPN5本法による検出限界は糞便100gあたり2cfuである。
  • LCB6株,LCB12株の新鮮培養菌液投与による大腸菌O157の排菌阻止(図1)
    大腸菌MN157株を感染させた約7ヶ月令の和牛2頭に,両菌株をGAM液体培地で培養した新鮮培養菌液を1頭あたり約1011cfu経口的に3日間投与したところ明らかな排菌阻止効果が確認された。予備的に109cfu投与した牛No.2では排菌量は減少するものの排菌阻止には至らず,排菌抑制効果を得るには1011cfu/頭程度の菌量が必要と考えられた。
  • LCB6株,LCB12株の生菌製剤投与による大腸菌O157排菌阻止 (図2)
    両菌株の製剤化をカルピス(株)に依頼し,菌量を1010cfu/gに調整した製剤を用いた排菌阻 止試験を実施した。約4ヶ 月令のホルスタイン種8頭に大腸菌MN157株を感染させ,実験感染開始7日目にも排菌を続けた4頭(No.1~ No.4)に,7日目から13日目までの 7日間,生菌製剤各10 g/頭を朝夕2回濃厚飼料とともに経口的に給与した。生菌製剤投与開始後,排菌量は次第に減少し,14日目には4頭中3頭で排菌は停止した。残り1頭(No.2)は微量菌の排泄を続けたため,17日目から23日目の7日間,全頭に再度生菌製剤の投与を継続したところ試験開始28日目には,すべて排菌陰性となった。その後3週間検索を続けたが,再排菌は認められなかった。

成果の活用面・留意点

    実験感染牛を用いた試験では,腸管出血性大腸菌O157を完全に排除することが可能であった。研究の完成の ためには,開発した生菌製剤を野外の保菌牛に応用し,有効性を確認する必要がある。

具体的データ

図1 LCB6株、LCB12株の新鮮培養菌液投与による大腸菌O157排菌阻止

図2 LCB6株、LCB12株の生菌製剤投与による大腸菌O157排菌阻止

その他

  • 研究課題名:牛腸管内における腸内菌叢構成菌と大腸菌O157との相互作用の解明
  • 予算区分:一般別枠(病原大腸菌)
  • 研究期間:平成10年度(平成9年~11年)
  • 発表論文等:
      1.大腸菌O157実験感染牛の排菌経過,第125回日本獣医学会講演要旨集,p.148(1998)
      2.生菌製剤投与による腸管出血性大腸菌O157実験感染牛の排菌抑制,第72回日本細菌学会講演要旨集,p.266 (1999)
      3.特許出願中(特願平11-75053)