宿主域拡張型ハイブリッドバキュロウイルスを利用したブタインターロイキン-2(IL-2)の 大量生産技術の確立

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要約

ハイブリッドバキュロウイルスを接種した昆虫細胞の無血清培養系を用い高純度のブタIL-2を,また同ウイルスを接種したカイコを用いて大量のブタIL-2を生産することに初めて成功した。

  • 担当:家畜衛生試験場 製剤研究部 上席研究官 (現 動物衛生研究所 免疫研究部 上席研究官)
  • 連絡先:0298(38)7875
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:バイテク
  • 対象:共通
  • 分類:普及

背景・ねらい

Tリンパ球の増殖因子であるIL-2をはじめ免疫系を調節している様々なサイトカインを用いた家畜疾病の予防・治療法を開発するためにはサイトカインを効率良く生産する必要がある。バキュロウイルス発現系には増殖性と発現効率が良く操作性に優れた培養細胞を宿主として用いるAcNPVとカイコを宿主とすることによって非常に高い発現効率が期待できるBmNPV系があるが, ウイルスの宿主域が狭いため共用できない。国内で開発された宿主域拡張型ハイブリッドバキュロウイルス(HyNPV)は,この両方の発現系が利用できるため,組換えウイルス構築や力価測定あるいは無血清培地でのタンパク質生産などにはAcNPV系の細胞を用い,大量生産にはカイコを用いることができる。

 

成果の内容・特徴

  • ブタIL-2(poIL-2)を生産するためにAcNPV由来の組換えウイルスAcPIL2とHyNPV由来の組換えウイルスHyPIL2cp- を作製し,タンパク質高発現細胞株TN5に感染させて無血清培地で培養したところ,両方の感染細胞から組換え型ブタ IL-2(rpoIL-2)が分泌され,感染後4日目で培地中に150 µg/ml程度蓄積した (図 1A)。 この場合,培地中の不純物が少ないのでrpoIL-2が容易に精製できる。
  • HyPIL2cp-をカイコ由来の細胞株に感染させ無血清培地で培養した結果,rpoIL-2の発現が認められことから (図 1B) ,この組換えウイルスがAcNPV系の宿主とともにカイコでも効率よくタンパク質を発現させ得ることがわかった。
  • HyPIL2cp-をカイコの5令幼虫に接種したところ体液中にrpoIL-2が蓄積した (図 1C) 。感染後4日目ではカイコ体液中のrpoIL-2濃度は約2 mg/mlでカイコ1頭からおよそ1 mg回収できた。これは遺伝子発現系としては最も効率の高いものの一つである。この体液にはIL-2依存性の細胞株CTLL-2を増殖させる活性があった (図 2)。 この組換えウイルスを850頭のカイコに接種することにより,約500 ml のrpoIL-2含有体液を回収することができた (図 3)。

成果の活用面・留意点

  • ハイブリッドバキュロウイルス感染カイコは種々の家畜サイトカインの大量生産系への利用が期待される。
  • 生産された高純度のrpoIL-2は,ブタの免疫機能増強などの臨床応用試験に利用される。
  • カイコでの大量生産に成功したが,精製法,生産コストについては今後の検討課題である。

具体的データ

図1 ハイブリッドバキュロウイルスによるブタIL-2の発現

 

図2 HyPIL2cp-接種カイコ体液によるCTLL-2細胞の増殖

 

図3 緩衝液中に回収したHyPIL2cp-接種カイコ体液

その他

  • 研究課題名:家畜用サイトカインの生産調製システムの開発
  • 予算区分:サイトカイン
  • 研究期間:平成10年度(平成9~12年度)
  • 発表論文等:1) High-efficient expression of porcine IL-2 with recombinant baculovirus infecte silkworm, Bombyx mori. Biotechnol. Bioprocess Eng. 5: 146-149 (2000)
    2) Highly efficient expression of porcine IL-2 by hybrid baculovirus in silkworm. Cytokine 11: 958 (1999)