豚回虫(Ascaris suum)のペルオキシレドキシンの分子性状

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要約

豚回虫のペルオキシレドキシン(AsPrx)は有意な発現量をともなう虫体の主要蛋白質の1つとして確認され,全ての発育ステージで恒常的に発現していた。また,AsPrxには抗酸化作用が確認されたことから,虫体生存に関わる重要な解毒酵素であると考えられた。

  • 担当:家畜衛生試験場 細菌・寄生虫病研究部 寄生虫病研究室 (現 動物衛生研究所 感染病研究部 寄生虫病研究室)
  • 連絡先:0298(38)7749
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:豚
  • 分類:研究

背景・ねらい

寄生虫感染症に対する予防対策の大半は化学療法剤に依存している。そのため,薬剤耐性を獲得した寄生虫の出現や畜産物への薬物残留が常に危惧されてお り,薬物に代わる新しい予防対策の確立が強く望まれている。本研究では,その開発のための基礎的知見を得ることを目的に家畜寄生虫の中で最も生化学的知見が蓄積されている豚回虫(Ascaris suum)を用いて虫体の生存に関わると考えられる抗酸化酵素蛋白質の解析を進めた。

成果の内容・特徴

  • 抗酸化酵素群の中で酵素活性が還元下で作用を示すペルオキシレドキシンのcDNAをクローニングした。分離した豚回虫 Prx(AsPrx)cDNA は全長776bpで,線虫に特異的なSplice leader 配列とポリアデニルシグナルが確認され,サザンブロット解析からAsPrxは単一コピーとして存在することが分かった。コード領域の推定分子量は 23.6kDaで,アミノ酸配列の第49及び168番目にはPrx群で保存されているシステイン残基が認められた。
  • 大腸菌で作製したコード領域の組換えPrx(rAsPrx, 図1) には,Metal ion-catalyzed oxidation (MCO) AssayによってプラスミドDNAに対するオキソイドラジカルによる損傷を阻止する酵素活性が認められた (図2)。
  • Native型豚回虫Prx(nAsPrx)は豚回虫抽出蛋白質中の有意な発現量を示す2つの蛋白質スポット(MW:23kDa,pI 5.6及びMW:24kDa, pI 7.2)として確認された (図3)。 また,nAsPrxの発現は,豚回虫のすべての発育ステージで認められたことから重要な抗酸化酵素として機能していることが示唆された。

成果の活用面・留意点

寄生虫の抗酸化酵素は,好気的代謝の間に産生されるオキソイドラジカルに対する保護や宿主の免疫担当細胞の侵襲に対する防衛の2つの役割を担い,寄生虫の酸化的ストレス回避機構の中心的役割を果たしていると考えられている。今回の成果は,豚回虫症だけでなく他の寄生虫感染症においても虫体の生物学的特性を利用したワクチン等の新しい防除技術開発のための有益な知見と考えられる。

具体的データ

図1 組換え豚回虫Prx蛋白質

図2 組換え豚回虫Prxの機能的活性

図3 Native型豚回虫Prxの同定

その他

  • 研究課題名:寄生虫抗酸化酵素の分子性状の解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成11年度から平成12年度
  • 発表論文等:1)Parasitology International 48, Supplement p.163.(1999)
    2)第128回日本獣医学会講演要旨集.p.84 (1999).
    3) Int. J. Parasitol., 30:125-128 (2000).