牛・豚のStx2に対する感受性の相異

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要約

牛由来培養細胞は豚のそれに比べStx2に対する感受性が低く,また腎臓糸球体においてStxのレセプターの一つであるGb3を有しないことを明らかにし,牛ではヒトや豚で頻発するStxによる臓器障害が起こらないことが説明できた。

  • 担当:家畜衛生試験場 九州支場 臨床病理研究室 (現 動物衛生研究所 九州支所 臨床病理研究室)
  • 連絡先:099(268)2078
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

近年,O-157に起因するヒトの食中毒が問題となっており,その一因として牛肉等の当該菌による汚染が指摘されている。牛は志賀毒素(Stx)産生大腸菌の保菌動物となることが知られているが,その体内における動態は明らかでない。本研究 では,牛がStx産生菌の保菌動物になることに注目し,牛と豚におけるStxに対する感受性を比較するとともにStxレセプターを検出することを目的とした。

成果の内容・特徴

    • Vero細胞,豚および牛初代動脈内皮培養細胞(PAE,BAE) (表1) を用いて,これらに牛および豚由来Stx2を接種し,それらの感受性を50%細胞致死量(50% cytotoxic dose,CD50)を指標として比較した。その結果PAEは Vero細胞と同等あるいはVero細胞以上の感受性を示したが,BAEでは明らかに低い感受性を示 した (表2)。
    • 新生子牛および成豚の腎臓を用いてStxレセプターの一つとして知られているGb3 (globotriaosylceramide)を検出するために,牛および豚(新生子牛3例,成豚3例)腎臓凍結切片を用いて,抗Gb3抗体による酵素抗体染色を行なった。この結果,豚腎臓糸球体毛細血管内皮細胞に陽性反応が認められた (図A) が,新生子牛の腎臓では陽性反応は認められなかった (図B)。
    • 牛および豚腎臓の凍結切片にStx2を反応させ洗浄した後,抗Stx2抗体を用いて酵素抗体染色を行なったところ,豚では陽性反応が認められたが新生子牛では陽性反応は認められなかった。

以上の結果から,牛は豚に比べStx2に対する感受性が低く,また腎臓においてStxレセプターを欠いているためにO157等の大腸菌が体内に存在しても発症しないことが示唆された 。

成果の活用面・留意点

本研究成績は,牛が発症しない理由の一端を明らかにしたものであり,保菌動物となる可能性を否定するものではないことに留意する。また,牛と豚のStx2感受性差は,Stx2の血管内皮細胞レセプターの分子構造解明への利用が期待される。

具体的データ

表1 供試した細胞株

表2 豚および牛由来細胞のStx2対する細胞障害性

図 抗Gb3抗体による酵素抗体染色

その他

  • 研究課題名:保菌動物におけるベロ毒素等の動態および腸管病変形成機構の解明
  • 予算区分:現場即応(病原大腸菌)
  • 研究期間:平成10~11年度
  • 発表論文等:Apoptotic changes in Vero cells and porcine endothelial cells induced by Verocytotxin
    2. 16th Meeting of the European Society of Veterinary Pathology, Proc. 124 (1998)