家畜を吸血源とする蚊の種類とアカバネウイルス保持能力

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

鹿舎と牛舎においてはシナハマダラカが最も多く捕獲され,アカイエカ,ヤマトヤブカが続いた。これらの蚊はシカとウシ両方から吸血した。シナハマダラカにアカバネウイルスを接種したところ,ウイルスは20日以上体内で保持された。

  • 担当:東北農業試験場 畜産部 家畜虫害研究室 (現 東北農業研究センター 畜産草地部 家畜環境研究室)
  • 連絡先:019(643)3544
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:虫害
  • 対象:乳用牛・肉用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

アカバネ病は吸血昆虫が媒介するウシの重要疾病であり,5~10年周期で流行が見られる。 日本における媒介昆虫としてはウシヌカカが最も疑わしいとされているが,この種は北東北以北には分布しておらず,それらの地域における流行はウシヌカカ以外のベクターが関与している可能性が考えられる。また東北においては非流行年においても野生鹿で62%もの高い抗体保有率が確認され,シカが本病の保有動物である可能性も示唆されているが,これまでシカの吸血昆虫は不明であった。そこでウシとシカから吸血するカの種類相を明らかにし,それらの体内におけるアカバネウイルスの保持能力を解明する。

成果の内容・特徴

  • 盛岡市の東北農試内の鹿舎および牛舎において1995年7月から9月にかけてライトトラッ プで蚊を採集した。鹿舎,牛舎共にシナハマダラカが最も多く,それぞれ捕獲個体数の62%以上をしめ,この後,アカイエカ,ヤマトヤブカ,オオクロヤブカ,コガタイエカと続いた (表1)。
  • 採集した蚊のうち吸血している個体についてELISA法でその吸血源動物を検出したところ,全ての種でシカとウシから吸血したことが明らかになった (表2)。
  • 個体数の多かったシナハマダラカとアカイエカについて,それらの胸側部にアカバネ病ウイルスをマイクロインジェクターで接種し,所定期間飼育した後,生虫体で乳剤をつくりウイルス定量を行った。また,ヒトスジシマカはウシ吸血性が高くその株化細胞内でアカバネウイルスを増殖させることが判明しているが,生体内では不明であったのでこの種についても同じ試験を行った。シナハマダラカにおいては接種直後より虫体内ウイルス感染価は高くなり, 接種後20日以上保持されることが明らかになった (表3) 。アカイエカはウイルス濃度が高くならず15日目には検出できなくなった。ヒトスジシマカは20日後までウイルスを保持したが感染価は低かった。

成果の活用面・留意点

  • シナハマダラカは,北東北から九州における放牧地や牛舎における優占種であり,ウシから吸血し,ウイルス保持期間も長いので本種がアカバネウイルスの伝播に関与する可能性が考えられる。
  • ベクターを特定するためには動物を用いた感染実証試験が必要であるが,そのための基礎的知見となる。

具体的データ

表1 東北農試場内の鹿舎と牛舎におけるライトトラップでの蚊捕獲数

表2 鹿舎と牛舎でで捕獲された吸血蚊のELISA法による吸血源動物判定

表3 アカバネウイルスを接種した蚊体内でのウイルス感染価の消長

その他

  • 研究課題名:小型吸血昆虫類の家畜に対する加害生態と疾病伝搬能
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成12年度(平成2年~9年)
  • 発表論文等:
    1)ヤブカ類の体内におけるアカバネウイルス保持と吸血行動, 東北農業研究51号,P125-126(1998).
    2)ヒトスジシマカのアカバネウイルス媒介能試験, 東北農業研究51号,P123-124 (1998).
    3)数種の蚊におけるアカバネウイルス増殖能,衛生動物学会北日本支部会講演要旨,衛生動物51巻P112(1998).
    4)ヤブカ属(Aedine mosquitoes)2種のアカバネウイルス媒介能,日本獣医師会雑誌,52巻12号,P763-767(1999).