日本で分離された口蹄疫ウイルスの性状解析

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要約

2000年3月に口蹄疫(FMD)が発生した。感染が疑われた黒毛和牛からOタイプFMDウイルス(O/JPN/2000)を分離した。そのVP1遺伝子の一部領域の系統樹解析の結果から本ウイルスがPanAsia Topotypeに属することが判明した。

  • 担当:家畜衛生試験場 海外病研究部 診断研究室 (現 動物衛生研究所 海外病研究部 診断研究室)
  • 連絡先:042(321)1441
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛
  • 分類:行政

背景・ねらい

2000年3月に我が国において92年ぶりに口蹄疫が発生した。初発農家の黒毛和牛においては,RT-PCR法以外では陽性結果は得られず,臨床症状も典型的な口蹄疫と異なっていた。今回発生した口蹄疫の浸潤・伝搬の様相を明らかにするために口蹄疫ウイルスを分離し,そのVP1遺伝子領域の系統樹解析を行う必要があった。

成果の内容・特徴

  • 第3例目の発生農家の黒毛和牛のプロバング材料を,2000RPM10分間,低温で遠心した。 沈渣を除去後,0.45µmのフィルターでろ過し, 牛甲状腺初代培養細胞(BThy),牛腎臓初代培養細胞(BK),ハムスター腎臓株化細胞(BHK) ,豚腎臓株化細胞(IBRS-2)に接種した。ウイル ス接種2日後に牛腎臓培養細胞において微弱な細胞変性効果が認められた。 (図1)
  • 細胞変性効果の認められた培養上清からRT-PCR法で口蹄疫ウイルス特有の遺伝子の増幅が確認された (図2) 。さらに,抗原検出ELISAではOタイプに陽性の反応が認められた (図3) 。以上のことより分離ウイルスが口蹄疫ウイルスOタイプであることが確認された。
  • 分離された口蹄疫ウイルスのVP1を認識する塩基番号469~639位までの遺伝子領域の塩基配列を決定した。既知の同タイプの口蹄疫ウイルスとの比較のため解析データを英国口蹄疫ワールドリファレンス研究所に送り,系統樹解析を実施したところ (図4) ,日本で分離された口蹄疫ウイルスは近年アジア地域で広く流行しているPanAsiatopotypeに属することが判明した。
  • 口蹄疫ワールドリファレンス研究所は日本政府と協議し,本ウイルスをO/JPN/2000 と命名した。

成果の活用面・留意点

口蹄疫ウイルスが今回分離されたことから,その原因究明,国内における浸潤状況の調査さらには防圧体制の構築に極めて有効な技術的情報となった。非定型的な口蹄疫をもたらした本病原体が分離された意義は大きい。

具体的データ

図1 牛腎臓初代培養細胞に認められた分離ウイルスによる細胞変性効果

図2 培養上清から増幅された口蹄疫ウイルスの遺伝子断片

図3 口蹄疫抗原検出ELISA

図4 O/JPN/2000の系統樹解析

その他

  • 本成果は,口蹄疫緊急病性鑑定において得られたものである。
  • 発表論文等:1)第130回日本獣医学会講演要旨集,p12
    2)第130回日本獣医学会講演要旨集,p116
    3)第130回日本獣医学会講演要旨集,p185
    4)European Commission for the control of Foot-and Mouth Disease, 2000,p32-38