インチミン遺伝子は牛由来腸管出血性大腸菌のスクリーニングに有用

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要約

牛直腸便から分離されたインチミン遺伝子(eae)保有大腸菌の約半数が公衆衛生上問題となる重要なO群血清型の腸管出血性大腸菌(EHEC)に型別された。eaeはEHECスクリーニングのための疫学マーカーとして有用と考えられた。

  • キーワード:インチミン,牛直腸便,疫学マーカー,腸管出血性大腸菌,eae,EHEC
  • 担当:動衛研・疫学研究部・臨床疫学研究室
  • 連絡先:0298-38-7798
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

牛は腸管出血性大腸菌(EHEC)O157などの保菌動物といわれている。ヒト由来EHECは志賀毒素(Stx)を産生し,腸管粘膜定着に必須の細胞外膜蛋白であるインチミン(eae遺伝子がコード)を発現することが知られている。牛糞便を対象とするEHECの疫学調査には ,志賀毒素遺伝子(stx)をマーカーにして実施されることが多い。しかしながら,多くの牛がEHECには分類されないStx産生大腸菌(STEC)を保菌していると考えられ ,この方法はEHECの疫学マーカーとしては不適切である。そこで我々はeaeがEHECスクリーニングのための効果的な疫学マーカーとなりうるか検討した。

成果の内容・特徴

  • 牛直腸便材料444検体についてPCRによりeae,stx1およびstx2遺伝子の検索を行った。 図1 に示すとおりeae陽性検体数は74検体(16.7%)でstxのそれは138検体(31%)であった。eaeおよびstx2両遺伝子が陽性であった検体数は22検体(5.0%)でO157はこれらの検体からのみ分離された。
  • eae遺伝子陽性の74直腸便材料のうちeae保有菌株(eaeEC)が46検体(62.2%)から分離された。
  • 分離されたeaeEC87株中,40株(46.0%)が,EHECのうちの主要なO群血清型5タイプ(O26,O103,O111,O145およびO157)に型別された。一方 ,1998年に分離した92株のSTECのうち,それらのO群血清型に型別されたのは15株(16.3%)に過ぎなかった。 (表1)。
  • 分離eaeECが保有するstxの種類はO157株を除き全てstx1のみであった。

成果の活用面・留意点

  • 牛糞便におけるeaeECおよびSTECの保有率,分離されるeaeECおよびSTEC中に占めたEHECの割合から,牛直腸便からEHECをスクリーニングする方法としてstxよりもeaeを疫学マーカーとした方が適切であることが明らかとなった。
  • EHEC O157の分離にはPCRスクリーニングでeaeおよびstx2が共に陽性を示す検体について実施すると効率的である。なお,eaeおよびstx2のスクリーニングはmultiplex-PCR法で実施可能である。

具体的データ

図1.被検牛直腸便(444検体)中のeae、stx1およびstx2保有検体数(PCR)

 

表1.eaeECおよびSTECのO群血清型別とeae、stx1およびstx2の保有状況

 

その他

  • 研究課題名:牛におけるインチミン遺伝子保有大腸菌の浸潤状況と保有病原遺伝子の解明
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2002年度
  • 研究担当者:小林秀樹,秦 英司,江口正志