大腸菌とGM-CSFの投与に伴う新生子牛の下痢発生と好中球化学発光能の変化

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要約

新生子牛に毒素原性大腸菌(ETEC)を経口投与して下痢を発生させると,下痢発生の前に末梢血好中球化学発光能(好中球CL能)の低下が始まった。その低下は,GM-CSFの皮下投与によって緩和された。

  • キーワード:新生子牛,毒素原性大腸菌,下痢,GM-CSF,好中球化学発光能
  • 担当:動衛研・生産病研究部・病態生理研究室
  • 連絡先:0298-38-7810
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

子牛の大腸菌性下痢は,生後10日齢以内の新生子牛に多発する傾向があり,その致死率は非常に高い。一方,好中球などの貪食白血球は,感染の初期防衛に主要な役割を担っている。
そこで,新生子牛へETECを投与して実験的に下痢を起こし,その時の末梢血貪食白血球機能の変動を調べる。更に,貪食白血球機能の亢進作用を持つサイトカインのGM-CSFを大腸菌と併用投与し ,この機能がどのように変化するかを調べることにより,子牛下痢の早期診断法及び予防法の開発に資する。

成果の内容・特徴

  • 実験的下痢発生時の好中球CL能の動態
    ホルスタイン新生子牛(新生子牛)を大腸菌投与群(投与群)5頭と液体培地投与群(対照群)6頭に分け,投与群にはETEC( N5株:血清型 O9:K35:K99,STa産生)1x1011CFU/200mlを ,対照群には液体培地200mlを生後24時間目に経口投与した。その結果,投与群では菌投与後24時間以内に全頭が下痢を起こした。糞の乾物重量%は,菌投与後24時間目に投与前の3分の1に低下した(図1)。好中球CL能は ,下痢便排出前(菌投与後6時間目)~4日目に大きく低下した(図2)。末梢血白血球数は,菌投与後6時間目~3日目に減少した。対照群では ,全頭とも下痢は起こらず,好中球CL能の低下も起こらなかった(図2)。
    局所感染では,殺菌能の高い貪食白血球が優先的に末梢血から感染部位に遊走されることが知られているので,菌投与後の好中球CL能の低下はそれが原因の一つとして考えられる。
  • 実験的下痢発生時の好中球CL能に与えるGM-CSFの影響
    新生子牛を大腸菌単独投与群5頭と大腸菌+GM-CSF投与群3頭に分け,両群にETECを1と同様に投与した。更に,大腸菌+GM-CSF群には生後12~24時間目にプロジェクト「サイトカイン」で作製したrBoGM-CSF8μg/kgを皮下投与した。その結果 ,大腸菌単独投与群では1と同様に下痢を起こし,また好中球CL能も下痢便排出前(菌投与後6時間目)~4日目に大きく低下した(図3)。一方 ,大腸菌+GM-CSF群でも全頭が下痢を起こしたが,大腸菌単独投与群に比べて下痢発生開始時間が3~6時間遅れた。好中球CL能も低下が起こったものの,低下の度合いは大腸菌単独投与群に比べて小さかった(図3)。
    以上,ETECの投与に伴う下痢発生の前に,好中球CL能の低下が起こること,及びその低下はGM-CSFの皮下投与によって緩和されることが明らかとなった。

成果の活用面・留意点

  • 大腸菌の経口投与に伴い,下痢を起こす数時間も前から末梢血好中球CL能が大きく低下した。この機能の低下は,子牛下痢の早期診断指標の一つとなり得る。
  • 子牛の下痢予防に対するサイトカインの影響については,投与量,投与時期などを含めて更に詳しい調査が必要である。

具体的データ

図1 大腸菌の経口投与に伴う糞の乾物重量%の変化

 

図2 大腸菌又は培養液の経口投与に伴う好中球化学発光能の変化

 

図3 大腸菌又は大腸菌+GM-CSFの経口投与に伴う好中球化学発光能の変化

 

その他

  • 研究課題名:子牛下痢における貪食白血球機能の動態解明
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1999~2001年度
  • 研究担当者:高橋秀之,田村 貴,新井鐘蔵,堀野理恵子,成田 實,犬丸茂樹,石川 整,成田卓美,中澤宗生,横溝祐一
  • 発表論文等:高橋ら (2000) 第130回日本獣医学会学術集会講演要旨集 p263.