乳房炎での末梢血好中球機能低下は好中球の加齢が関係している

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要約

末梢血好中球機能の低下には,血管外への著しい好中球浸潤にともなう好中球分布のアンバランス(老化細胞増加とその後の幼若細胞の増加)が関与していることが示唆された。

  • キーワード:牛,乳房炎,好中球機能,アポトーシス,寿命,遊走,接着分子
  • 担当:動衛研・北海道支所・臨床生化学研究室
  • 連絡先:011-851-5226
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

牛乳房炎発病時に末梢血白血球の機能が低下することが知られている。同様の現象は,牛乳房内に大腸菌由来内毒素(LPS)を接種し,実験的に乳房炎を誘起した場合でも ,末梢血アポトーシス好中球の増加に平行して認められている。そこで,これらの現象の発生機序を検討した。

成果の内容・特徴

    実験には2~5産の健康なホルスタイン搾乳牛10頭と育成牛6頭の計16頭を用いた。搾乳牛は全頭LPS(Sigma,0111:B4)500μgを乳槽内に接種した。接種後は48時間まで定期的に採取した末梢血 ,乳静脈血,および乳汁由来の好中球を用いて,TUNEL法によるアポトーシス陽性率の測定と好中球機能測定を行った(牛6頭)。また,膜接着分子の発現と遊走能の測定を行った(牛4頭)。育成牛は正常時に見られるアポトーシス好中球(老化好中球)の遊走能を検討した。
  • アガロースゲル電気泳動,Comet assay,および電子顕微鏡観察の結果,アポトーシス好中球ではDNAの変性や断片化が見られるものの,その程度は典型的なアポトーシスの状態ほど強くなく ,正常好中球の老化細胞と同程度であることが示された。
  • アポトーシス好中球と,アポトーシスに直接関与すると考えられる末梢血サイトカインの発現には有意な関係は認められなかった。
  • アポトーシス好中球はLPS投与後末梢血では増加したが,乳汁では逆に低下した。 末梢血では著しい白血球減少が見られた(表1)。末梢血アポトーシス好中球では ,接着分子であるCD18及びCD62Lの発現が低下しているとともに,遊走能も接種前の14%程度に低下していた(表2)。正常牛由来のアポトーシス好中球(老化細胞)では遊走前に比べて遊走後は走化因子(IL-8)の有無に関わらずTUNEL陽性率が低下することから ,老化細胞では遊走能が低下していることが示唆された。(図1)。
    以上の成績から,LPS乳房内接種後,成熟好中球のほとんどは血中より乳房組織等へ浸潤するものの,老化細胞は遊走性が低いため流血中に留まり,結果として臨床的にアポトーシス好中球の増加として観察されたものと考えられた。
  • 末梢血好中球の活性酸素産生能は,アポトーシス細胞の増加からその後の減少時(接種後8時間)にも引き続き低下していた。この時期にLPS接種牛では白血球減少に続く幼若好中球の急増が認められた(表1)。幼若好中球では老化好中球と同様に活性酸素産生能が低下していることが報告されていることから ,LPSの乳房内接種後の好中球機能低下には,血管外への著しい好中球浸潤にともなう末梢血好中球分布のアンバランス(老化細胞増加とその後の幼若細胞の増加)が関与していることが示された。

成果の活用面・留意点

本成果は乳房炎のみならず,著しい血管外細胞浸潤をともなう急性炎症の病態を理解する上で有用な所見と思われる。

具体的データ

表1 牛乳房への大腸由来LPS摂取後の血中および乳中好中球機能の変化

 

表2 LPS接種後の乳静脈好中球のTUNEL陽性率、遊走能、および接着分子発現の変化

 

図1 正常牛由来TUNEL陽性好中球(老化好中球)の遊走性

 

その他

  • 研究課題名:牛乳房炎発病時に見られる末梢血好中球の機能低下とアポトーシス亢進の機序解明
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1999~2001年度
  • 研究担当者:八木行雄,塩野浩紀,芝原友幸,近山之雄,中村一郎,大沼愛子
  • 発表論文等:1)Yagi et al. (2002) Vet. Immunol. Immunopathol. 89:115-125
                      2)Yagi et al. (2000) The Pacific Congress on Milk Quality and Mastitis Controlp653-659.
                      3)八木ら (2000) 第129回日本獣医学会学術集会講演要旨集 p148.
                      4)八木ら (2001) 第4回乳房炎研究会proceeding p24-26.