B群ロタウイルス抗体検出法の開発とその利用

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要約

培養細胞での増殖が困難な下痢起因ウイルスであるB群ロタウイルスの抗体検出法を開発した。本法を野外応用した結果、本ウイルスはわが国の牛と豚に広く浸潤していることが明らかとなった。

  • キーワード:下痢症、B群ロタウイルス、VP6、バキュロウイルス発現系、牛、豚
  • 担当:動衛研・疫学研究部・七戸研究施設・環境衛生研究室
  • 連絡先:電話0176-62-5115
  • 区分:動物衛生
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

B群ロタウイルス(GBR)は、牛、豚、ヒトなどの下痢起因ウイルスであるが、培養細胞での増殖が困難なために浸潤状況や疫学実態など不明な点が多い。そこで、牛GBRの主要構造蛋白であるVP6を発現する組換えバキュロウイルスを作出し、発現蛋白を用いてELISAによるGBR抗体検出法を開発した。次いで、本法によりわが国の牛と豚におけるGBRの浸潤状況を調査した。

成果の内容・特徴

  • 牛GBR Nemuro株VP6遺伝子の塩基配列を決定した。塩基数は1269、アミノ酸数は391であり、ヒトGBR ADRV株ならびにラットGBR IDIR株の当該遺伝子との相同性は塩基配列で58-60%、アミノ酸配列で70-72%と、他の動物種由来GBRと明瞭に区別された。
  • バキュロウイルス発現系による牛GBR Nemuro株VP6の発現を行った。VP6遺伝子挿入バキュロウイルスを感染させたSf9細胞溶解産物中には電気泳動により塩基配列から推測される分子量(43kD)と一致した発現蛋白が認められ、当該蛋白は抗牛GBR血清(オハイオ州立大より分与)と反応した(図1)。一方、抗牛A群ロタウイルス(GAR)血清ならびに抗牛C群ロタウイルス血清とは反応しなかった。
  • 組換えVP6を抗原としてGBR抗体検出用ELISAを開発した。GBR実験感染牛回復期血清は本法に反応したのに対し、GAR実験感染牛回復期血清は反応しなかった。GBRの自然感染による下痢発症牛から採取したペア血清はいずれも本法により抗体応答が確認された(図2)。
  • 20農場の牛から採取した血清計100例を用いてGBR抗体検査を実施した。牛血清58%(19農場由来)がGBR抗体陽性であった。また、抗体陽性率は一歳以下で低く(15-22%)、二歳以上で高かった(64-92%)(表1)。これらの結果から、GBRはわが国の牛集団に広く浸潤していること、GBR感染は子牛よりも成牛に多いことが明らかとなった。
  • 10農場の繁殖豚から採取した血清100例ならびに1農場由来の月齢別血清30例を用いてGBR抗体検査を実施した。繁殖豚血清97%(10農場由来)がGBR抗体陽性を示した。また、月齢別血清では抗体価の上昇は3ヶ月齢より認められた(図3)。これらの結果より、GBRはわが国の豚集団に広く浸潤していること、1農場においてはGBRの感染は離乳子豚に多く認められることが明らかとなった。

成果の活用面・留意点

  • 本ELISAは牛ならびに豚GBRの血清診断や浸潤状況調査に利用可能である。
  • 牛GBR VP6遺伝子の塩基配列が初めて決定されたことにより、GBRの遺伝学的解析や、PCR法などの遺伝子診断方法の開発などへの利用が期待される。

具体的データ

図1 組換え牛GBR VP6 の作製

図2 GBR 自然感染による下痢発症牛から採取 a ポリアクリルアミドゲル電気泳動したペア血清のGBR抗体価

図3 豚月齢別血清のGBR 抗体価

表1 20 農場から採取した年齢別牛血清のGBR 抗体保有率

その他

  • 研究課題名:複合感染症としての豚下痢症の実態解明
  • 予算区分:交付金(所内プロ)
  • 研究期間:2002~2003年度
  • 研究担当者:恒光 裕、勝田賢、河本麻理子、川嶌健司、庄司智太郎、小野寺利幸