我が国初発の牛海綿状脳症(BSE)牛の脳の病変分布および異常プリオン蛋白質の蓄積分布

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要約

我が国初発の牛海綿状脳症(BSE)の病理学的診断を行うと共に神経病理学的特徴を精査し、本症例が英国のBSEと神経病理学的に類似していることを明らかにした。この成果は我が国におけるBSEサーベイランスが延髄のみの検索で行われていることに根拠を与えるものである。

  • キーワード:牛海綿状脳症、BSE、プリオン病、病理、免疫組織化学
  • 担当:動衛研・プリオン病研究センター・病態解明チーム、動衛研・感染病研究部・感染病理研究室、
            千葉県・中央家畜保健衛生所
  • 連絡先:電話029-838-7837
  • 区分:動物衛生
  • 分類:行政・普及

背景・ねらい

プリオン病の診断は、病理組織学的、免疫生化学的および免疫組織化学的検査によって行われる。国際的な家畜疾病の診断基準を定めたOIE Manual of Standards for Diagnostic Tests and Vaccines (国際獣疫事務局:診断法とワクチンのための標準マニュアル)では、英国で発生したBSEは単一株のプリオンに起因し、病変分布に統一性が見られるという理由から、病変が必発する延髄閂部のみの検査で診断が可能であると記載されている。また、英国以外の国における延髄閂部のみの検査による診断は、脳の病変分布が英国例と同一であることが確認された場合に限り可能であると記述されている。そこで2001年9月に我が国で発生した牛海綿状脳症(BSE)の脳の病変分布を病理組織学的に精査し、英国例と比較検討した。また、免疫組織化学的に異常プリオン蛋白質(PrPBSE)の分布を検査した。

成果の内容・特徴

  • 症例はホルスタイン種、雌、5歳で、起立不能を呈したため屠殺された。病理組織学的検査で延髄に左右対称性の海綿状変性が認められ、免疫組織化学的検査およびウエスタンブロット法でPrPBSEの蓄積が確認された。これらの検査結果より本症例はBSEと診断された。
  • 延髄を含む脳の全領域の病変分布の検索で、空胞変性は主に脳幹に分布し、中脳から延髄にかけて高度に認められた(表1)。延髄では空胞変性は三叉神経脊髄路核に最も顕著に認められた(図1)。
  • 免疫組織化学的検査にはウサギ抗マウスPrP合成ペプチド抗体を用い、前処理法には蟻酸・蒸留水オートクレーブ法を用いた。その結果、異常プリオン蛋白質(PrPBSE)は中脳および延髄で高度に認められた(図2)。また病理組織学的に空胞が観察されなかった尾状核、被殻および小脳皮質においても免疫組織化学的検査により陽性反応が確認された。
  • 検索結果より本症例の脳の病変分布は英国のBSE症例のものと同一であると考えられた。このことから本症例は英国例と同じBSEプリオンに罹患している可能性が示唆された。

成果の活用面・留意点

  • 本研究結果は、我が国における延髄閂部のみのBSE検査に根拠を与える、極めて重要な結果である。
  • 免疫組織化学的検査では、病変の確認されない領域においても陽性反応が認められ、診断および病態解析におけるその有用性が示された。

具体的データ

表1 BSE野外発生例の脳における病変分布および異常プリオン蛋白質の蓄積分布

 

図1.延髄三叉神経脊髄路核の空胞変性

図2.免疫組織化学による延髄三叉神経 脊髄路核の異常プリオン蛋白質(PrPBSE) の蓄積

その他

  • 研究課題名:スクレイピー野外発生症例の病態解析および遺伝学的解析
  • 予算区分:交付金プロ(プリオン病)
  • 研究期間:2000~2002年度
  • 研究担当者:木村久美子、播谷亮、久保正法、齋藤正恵、谷村信彦、早坂成郎、池田章夫
  • 発表論文等:1)Kimura KM. et al.(2002)Vet.Rec.151:328-330.
                      2)木村、播谷 BSE:我が国初発例の病理組織像 動衛研ホームページ