山羊関節炎・脳脊髄炎の病理組織学的診断指標

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

我が国で初めて山羊関節炎・脳脊髄炎を診断した。特徴病変は、非化膿性増殖性関節炎、非化膿性乳房炎およびリンパ球の過形成を伴う間質性肺炎であり,これらは病理組織学的診断指標となる病変である。

  • キーワード:山羊関節炎・脳脊髄炎、初発例、診断
  • 担当:動衛研・感染病研究部・感染病理研究室、ウイルス病研究室
  • 連絡先:電話029-838-7837
  • 区分:動物衛生
  • 分類:行政・普及

背景・ねらい

山羊関節炎・脳脊髄炎(CAE)は、レトロウイルス科のCAEウイルスの感染に起因する、山羊の不治性進行性疾病である。本疾病の発生は、米国、欧州、オーストラリアなど世界各国で報告されていたが、日本は非汚染国と考えられてきた。しかし、2002年に病性鑑定を依頼された山羊が検査の結果CAEと診断されたことから、病理学的診断指標を明らかにするため、病理組織学的診断の要点について検討した。

成果の内容・特徴

  • 2002年7月、長野県松本家畜保健衛生所から送付された関節腫脹を呈したシバヤギの組織標本を顕微鏡観察したところ、非化膿性増殖性関節炎と著明なリンパ球浸潤を伴う間質性肺炎が観察され、これらはCAEの病変に一致した。
  • 2002年8月、長野県内の農場において関節の腫脹を呈するシバヤギ2頭を解剖し、病理学組織学的および血清抗体検査に供した。その結果、病理組織学的に非化膿性関節炎と乳房炎が観察され、ゲル内沈降反応によりCAEウイルスに対する血清抗体が証明された。これらの検査結果から、本症例は、我が国初発のCAEと診断された。
  • 2002年末までに病理学的検査を実施した15頭のシバヤギ(図1)では、非化膿性増殖性関節炎(図2)と非化膿性乳房炎が大多数の症例で観察され、さらにリンパ球の過形成を伴う間質性肺炎(図3)と非化膿性間質性腎炎がしばしば観察された。
  • 3頭のシバヤギの四肢関節における病変分布を病理組織学的に検査したところ、関節炎は手根関節で最も高頻度に認められ、次いで肩関節、肘関節、股関節、膝関節に観察された。
  • 以上のことから、CAEの病理組織学的診断指標となりうる病変は、非化膿性増殖性関節炎、非化膿性乳房炎およびリンパ球の過形成を伴う間質性肺炎であることが確認された。

成果の活用面・留意点

  • CAEの病理組織学的診断に当たっては、上記の指標を参考に診断を行うと共に、確定診断には、ゲル内沈降反応による抗体の確認が必要である。(また、マイコプラズマ感染症などによる類似疾病との類症鑑別も必要である。)
  • 関節については、関節滑膜のみでなく、関節部の骨を含めて採材すると病変の検出率が向上することが示唆された。
  • 日本在来種であるシバヤギは、成獣でも本ウイルスに感染すると肺炎を併発する傾向があり、水平伝播を起こしやすいことが示唆された。
  • 脳脊髄炎は、若齢のヤギで認められると報告されているが、現在までのところ、我が国の検査症例では観察されていない。
  • 今後は、病理学的診断の高度化のため、検査頭数を増やして病変分布と病変の特徴をさらに詳細に検討する必要がある。また、本疾病を国内から排除し、輸入動物を正確に検疫するため、高感度なウイルス学的診断法の開発を試みる必要がある。

具体的データ

図1 手根関節が腫脹し、起立困難を呈したシバ山羊

 

図2 リンパ球浸潤を伴った関節滑膜の 絨毛状増殖

図3 リンパ球浸潤を伴った間質性肺炎

その他

  • 研究課題名:なし(病性鑑定対応)
  • 予算区分:なし(病性鑑定対応)
  • 研究期間:2002年度
  • 研究担当者:播谷 亮、谷村信彦、木村久美子、泉対 博、坪井孝益、小西美佐子