組換えVspA蛋白を用いたマイコプラズマ・ボビス感染症の防除

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要約

ウシの肺炎および乳房炎の重要な原因の一つであるマイコプラズマ・ボビスから代表的な付着因子である変異性表層リポ蛋白VspAの遺伝子を単離して大腸菌に入れ、組換え蛋白を精製し、この組換えVspA蛋白が感染牛の診断および感染防御に利用できる可能性を示した。

  • キーワード:肺炎、乳房炎、マイコプラズマ・ボビス、VspA
  • 担当:動衛研・生物学的製剤センター・品質管理科
  • 連絡先:電話029-838-7874
  • 区分:動物衛生
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

マイコプラズマ・ボビスは牛の肺炎や難治性乳房炎の重要な原因菌のひとつである。有効なワクチンや診断薬はなく、現在の対策は肺炎については予防的な投薬、乳房炎については乳牛の淘汰が行われている。このため、ワクチンや診断薬の開発が必要であり、その候補として代表的な付着因子である変異性表層リポ蛋白Vspなどについて応用性を検討する。

成果の内容・特徴

  • マイコプラズマ・ボビスの基準株(PG45)と乳房炎由来の3株(3、297、313)から、変異性表層リポ蛋白(variable surface lipoprotein:Vsp)の一つであり、最も重要と考えられるVspAの遺伝子全長を単離して、大腸菌に組込み組換えVspA蛋白を精製した。遺伝子の塩基配列から予想される蛋白のサイズは32kDaであるのに対し、SDS-PAGE法で得られた4株の組換えVspA蛋白の分子量は56~65kDaと大きく、リピド修飾をうけたためではないかと考えられた。
  • 4株の組換えVspA蛋白はイミュノブロッティング法で、組換えVspA免疫ウサギ血清とだけでなく、マイコプラズマ・ボビス全菌体免疫ウサギ血清およびマイコプラズマ・ボビス自然感染牛血清ともよく反応した(図1)。そこで自然感染牛から経時的に採取した血清の反応を間接法ELISAで調べたところ、これらの血清は基準株の菌体からツイーン20で抽出した抗原と同様に基準株の組換えVspA蛋白ともよく反応した(図2)。
  • さらに、組換えVspA蛋白で免疫したウサギ血清がマイコプラズマ・ボビスの牛気管粘膜上皮細胞への付着を阻止できるか調べたところ、組換えVspAに対する免疫血清で処理したマイコプラズマ・ボビスの付着生菌数は2~5x107cfu/cm2で、免疫をしていない抗体陰性のウサギ血清で処理した場合の5~2分の1に阻止され、基準株の全菌体で免疫したウサギ血清で処理した場合と同程度の阻止を示した(図3)。

成果の活用面・留意点

  • マイコプラズマ・ボビス自然感染牛血清が組換えVspA蛋白に対し菌体から調製した抗原と同等の反応性を示したことから、この抗原を用いたELISA法がマイコプラズマ・ボビス感染牛の診断に利用できる可能性が示された。
  • 組換えVspA蛋白に対する抗体は試験管内でマイコプラズマ・ボビスの牛気管粘膜上皮細胞への付着を阻害することが確認できた。ワクチンへの応用性を確認するためにはさらにこの抗体がマイコプラズマ・ボビスの貪食細胞による貪食・殺菌の促進にも関与することを示す必要があると考えられた。
  • また乳房炎への応用については牛の乳頭管上皮細胞あるいは乳腺上皮細胞に対する付着阻止活性を確認する必要があると考えられた。

具体的データ

図1.組換えVspA 蛋白4 種に対するマイコプラズ マ・ボビス感染牛およびウサギ免疫血清の反応

 

図2.組換えVspA免疫ウサギ血清によるマイコプラズ マ・ボビスのウシ気管粘膜上皮への付着阻止効果

 

図3.マイコプラズマ・ボビス自然感染牛8頭の経時血清24例 のPG45株組換えVspA 蛋白に対するELISA抗体価の推移。

その他

  • 研究課題名:マイコプラズマに対する免疫細胞活性化技術の開発
  • 予算区分:交付金プロ(乳房炎)
  • 研究期間:2001~2005年度
  • 研究担当者:今田由美子、江口正志、横溝祐一
  • 発表論文等:1)今田ら(2002)日本マイコプラズマ学会雑誌 29:39-41.