非特異反応が少なく簡易迅速な口蹄疫中和抗体検出ELISA法

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要約

口蹄疫ウイルス(O/JPN/2000株)に対するモノクローナル抗体を用いて液相競合ELISA法による口蹄疫ウイルス感染動物に対する抗体検出法を開発した。本法は中和試験とよく相関し、現行の液相競合ELISAと比較して非特異反応が少ないことから、症状を示さない感染動物の診断や血清学的サーベイランスなどに利用できる信頼性の高い迅速血清診断法である。

背景・ねらい

口蹄疫は国内では家畜法定伝染病、国際的には国際獣疫事務局(OIE)でリストA疾病に指定され、国際貿易上重要性の高い家畜伝染病である。近年、牛に症状を示しにくい、いわゆる非定型的な病原性状を示す口蹄疫が日本を含む世界各国で発生しているため、血清学的診断がこれまで以上に重要になってきている。口蹄疫の血清学的診断には国際標準法の液相競合ELISA法(W/L-P ELISA)と中和試験があるが、前者では血液凝固剤を加えた血漿や、通常の血清においてさえも高い頻度で非特異反応が生じることが世界共通の問題となっている。また、後者の場合、強毒ウイルスを用いるため高度封じ込め施設を持たない検査機関では実施できないばかりでなく、多検体処理が困難で迅速診断には不向きである。このような問題を解決するために、迅速かつ多検体処理が可能で、精度の高い、中和試験に代わる血清学的診断法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 口蹄疫ウイルス(O/JPN/2000株)に対するモノクローナル抗体(MAb)産生ハイブリドーマを13株樹立した。それらのうちウイルス中和能を有するものは3株であった。エピトープ解析の結果、それぞれ異なるエピトープを認識していた。これらのMAbから最も反応性の良いものを選別し、MAb液相競合ELISA法(M/L-P ELISA)を開発した。
  • M/L-P ELISAは感染実験により得られた経過血清を用いて中和試験、W/L-P ELISAを行い、それぞれを比較した結果、3法ともよく相関していた(図1)。W/L-P ELISAで非特異反応を強く示したヘパリン加血漿に対しては、M/L-P ELISAで非特異反応を大幅に抑えることができた(表1、図2)。さらに、W/L-P ELISAで非特異反応を示した野外血清においても同様に非特異反応を大幅に抑えることができたことから(表2)、本法が中和試験に代わる非特異反応が少ない抗体検出ELISA法である。

成果の活用面・留意点

  • 2000年の口蹄疫発生時に実施した血清学的サーベイランスには現行血清診断法を用いたが、総計6万検体を越える血液サンプルで高い頻度の非特異反応を生じ、防疫活動の最大の支障になった。本法は、非特異反応が少なく多検体処理が可能であることから、現在世界的に流行している口蹄疫ウイルスPanAsia strains感染動物の血清学的診断や検疫検査、さらに発生時の血清学的サーベイランスにも活用可能である。

具体的データ

図1.実験感染牛経過血清を用いた3法の比較 表1.血清とヘパリン加血漿のELISA抗体価の比較

 

表2.非特異野外サンプルを用いたELISA及び中和試験による抗体価の比較 図2.血清とヘパリン加血漿のELISA写真W/L-P ELISAではヘパリン加血漿が強く陽性を示している

その他

  • 研究課題名:口蹄疫ウイルス感染動物に対する迅速多検体処理を目的とした抗体検出法の開発
  • 課題ID:13-03-02-01-08-03
  • 予算区分:交付金プロ/口蹄疫(2010)
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:森岡一樹、土屋佳紀、吉田和生
  • 発表論文等:1) Yoshida and Sakamoto (2001) Report of the second meeting on foot and mouse disease control
                          in East Asia, OIE: 118-124.
                      2) 吉田ら (2005) 交付金プロジェクト
                         「口蹄疫等の海外悪性伝染病の性状解明と高度診断技術の開発」研究成果集 4-6.