ブタ回虫粘膜ワクチン分子として有望なAs16抗原
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要約
ブタ回虫16kDa(As16)抗原を粘膜投与した豚はブタ回虫幼虫の体内移行を阻止することを明らかにした。As16抗原は有望なブタ回虫粘膜ワクチン分子である。
- キーワード:ブタ回虫、ヒト回虫、組換えAs16抗原、回虫ワクチン、粘膜ワクチン
- 担当:動物衛生研・感染病研究部・寄生虫病研究室
- 連絡先:電話029-838-7749、電子メールでの問い合わせはこちらから。
- 区分:動物衛生
- 分類:科学・普及
背景・ねらい
有機農法や集約的な畜産形態の導入により農畜産物に混入したブタ回虫等によるヒトの回虫症が集団発生していることから的確な回虫駆虫法が求められている。同時に薬物残留が危惧されている現在の化学療法剤に依存した駆虫法の脱却が急がれている。本研究では回虫の生残に不可欠な蛋白・酵素を解析しこれら分子の性状をもとに回虫ワクチン・抗回虫薬を設計し、回虫に感染した家畜動物の摘発、回虫駆除法及び感染源である虫卵拡散の防止策を確立する。
成果の内容・特徴
- ブタ回虫16kDa抗原(As16)遺伝子をブタ回虫幼虫から単離した。粘膜アジュバントのコレラトキシンとAs16の組換え抗原(rAs16)を経鼻免疫したマウスではブタ回虫の体内幼虫の移行を阻止した。
- rAs16に対する特異抗体を作製し、その局在を調べたところ、ブタ回虫幼虫ステージの消化管上皮で発現が確認された(図1)。
- 豚にrAs16とコレラトキシンを経鼻免疫(rAs16-CT群)したところ、rAs16特異IgG及びIgA抗体が誘導された。攻撃感染によって、肺まで到達する幼虫を計数したところ、rAs16+CT群では対照群と比べて58%の回収幼虫数の減少が確認され、幼虫の体内移行阻止が認められた(図2)。
- rAs16に対する特異IgG抗体は濃度依存的に感染幼虫を死滅させ、成熟した第3期幼虫(肺内幼虫)の第4期幼虫への脱皮を阻害した(図3)。
- 以上より、rAs16を経鼻免疫した豚では特異抗体によってブタ回虫幼虫の体内移行が阻止されることが明らかとなった。また、ヒト回虫もAs16と同一分子を発現していることが分かった。
成果の活用面・留意点
- rAs16は有望なブタ回虫症ワクチン分子である。
- 本研究の知見は、人獣の回虫におけるAs16を標的とした新しい抗寄生虫薬の開発を可能にする。
具体的データ



その他
- 研究課題名:人獣共通寄生虫の持続感染機構の解明
- 課題ID:13-02-01-01-61-03
- 予算区分:委託プロ/BSE・人獣(ZCP-22)
- 研究期間:2003~2007年度
- 研究担当者:辻 尚利、カイルル イスラム、三好猛晴、春日春江、磯部 尚
- 発表論文等:1) Tsuji et al. (2003) Infect. Immun. 71:5314-5322.
2) Tsuji et al.(2004) J. Infect. Dis. 190:1812-1820.