Streptococcus suis が外来遺伝子をゲノムへ組み込むメカニズム
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要約
豚のレンサ球菌症の主な原因菌 S. suis 染色体上のある領域に存在した8種類の外来遺伝子は、染色体と外来遺伝子との間の僅かな相同性を介した組換えにより、偶然そこに組み込まれたものであることを明らかにした。
- キーワード:ブタ、Streptococcus suis、外来遺伝子、水平伝播、非相同組換え
- 担当:動物衛生研・感染病研究部・病原細菌研究室
- 連絡先:電話029-838-7743、電子メールでの問い合わせはこちらから。
- 区分:動物衛生
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
豚に髄膜炎・心内膜炎・敗血症等を起こすレンサ球菌 S. suis の制限修飾遺伝子及び溶血素遺伝子の菌株間での分布やその遺伝子配列解析から、本菌が外来遺伝子を菌種間及び菌種内で交換していることが明らかとなり、それが本菌の多様性を形成する一因であると考えられている(動物衛生研究成果情報No.2, p.15-16, 2002, J. Bacteriol. 184:2050-2057, 2002.)。しかし、外来遺伝子がゲノムへ挿入された境界部位の塩基配列解析からは、ゲノムへの組み込みのメカニズムを推定できるような特徴は見出せなかった。そこで、さらに多くの外来遺伝子の実例を探し、それらを比較すると共に、実験的に外来遺伝子をゲノムへ挿入させて、その組み込みメカニズムを明らかにすることを目指した。
成果の内容・特徴
- S. suisのいくつかの菌株で、プリン合成に関与する2つの遺伝子purHとpurD の間の同じ領域に、既に報告した制限修飾遺伝子とは異なる新たな7種類の外来遺伝子の挿入を発見した(図1)。
- purH-purD領域には、外来遺伝子を取り込みやすい特別な構造はなく、挿入境界部位の塩基配列を整列すると、挿入境界部位に短い相同配列が散在していた(図2)。
- 外来遺伝子挿入を実験的に再現すると、purH-purD領域ではなく、ゲノム上の異なる領域にランダムに取り込まれることが実証された(図3)。
- 実験的にゲノムに挿入された遺伝子の挿入境界部位を調べると、外来遺伝子と染色体との間の短い相同配列を介した非相同組換えにより挿入されていた(図4)。
- 以上の成績より、purH-purD領域に見られた外来遺伝子は、染色体と外来遺伝子との間の短い相同配列を介した非相同組換えによって、偶然ここに取り込まれたものであると考えられた。
成果の活用面・留意点
- 細菌が本来保有する非相同組換え機構が、レンサ球菌ゲノムの進化に果たす役割を明らかにしたものであり、この機構によれば、菌にとって有害でない遺伝子ならば、他の菌から水平伝播して本菌の集団内に定着することを示している。
- この成績は、同じ機構によって、色々な遺伝子が細菌間を伝達することを意味し、例えば、薬剤耐性遺伝子や、いずれその毒性が明らかになるような未知の病原遺伝子でさえも、一度自然界に出現すると、それがプラスミド、バクテリオファージ、または転移因子の存在がなくとも、他の非病原性株に伝達可能であることを示している。
具体的データ


その他
- 研究課題名:制限修飾遺伝子Ssu DAT1Iの転移能とゲノム改変に及ぼす影響の解析
- 課題ID:13-02-02-*-12-03
- 予算区分:パイオニア(制限修飾遺伝子)
- 研究期間:2000~2003年度
- 研究担当者:関崎 勉、大崎慎人、高松大輔
- 発表論文等:Sekizaki et al. (2005) J. Bacteriol. 187:872-883.