新しい体外成熟培地POMを用いたブタ胚の体外生産

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要約

新しい体外成熟培地を考案し、体外成熟、体外受精及び体外発生の全てを既知成分からなる限定培地のみで行うブタ胚の体外生産法を案出した。この方法による胚盤胞への発生率は、従来法と同程度である。

背景・ねらい

体外生産した家畜胚を移植する技術は、低コストでの子畜の生産が可能である。しかし、ブタ卵子の体外成熟には、通常ブタ卵胞液(pFF)が使用されており、病原体混入の可能性を否定できない。胚の体外生産を既知成分のみで構成された限定培地を用いて行うことは、病原体などの未知因子の混入の可能性が少なく、実験の再現性も高い。そこで、ブタでは成功していない限定培地による胚の体外生産法を開発する。

成果の内容・特徴

  • ブタの卵管液の組成を模して作製したブタ胚の体外発生用培地PZM-5をもとに、体外受精用培地PGMtac5及び体外成熟用培地POMを案出した。PZM-5及びPGMtac5は、高分子物質としてポリビニルアルコール(PVA)を含む化学的組成の明らかな完全合成培地である。
  • POMはブタ未成熟卵子の体外成熟に有効である。POMあるいはブタ卵子の体外成熟用培地として一般的に使用されている修正NCSU37培地を基礎培地として体外成熟培養を行うと、POMにPVAを添加(POM+PVA)した場合は、POMあるいは修正NCSU37にpFFを添加した培地(POM+pFF あるいはNCSU37+pFF)と同等の成熟率を示す(図1)。
  • ブタ卵子をPOM+PVAで体外成熟した後にPGMtac5で体外受精すると、NCSU37培地やPOM+pFFで成熟培養した場合よりも正常受精率は高くなる。また、体外受精後にPZM-5で体外発生を行うと、胚盤胞の細胞数は、pFFを添加した場合に比べ少ないものの、同等の胚盤胞への発生率が得られ(表1)、新たに開発した限定培地による体外生産法でブタ胚盤胞の作出が可能である。
  • POM+pFFで体外成熟した後、体外受精及び体外発生を行って作製した胚盤胞を非外科的に代理母へ移植すると、10頭中2頭が妊娠し、計14頭の子豚を分娩している。

成果の活用面・留意点

  • ブタ卵胞液を添加しない既知成分のみで構成された限定培地を用いた体外生産法は、培地からの病原体の伝播の可能性が極めて少ない。また、限定培地は成分の改変が容易である。
  • 既知成分のみで構成された限定培地を用いた体外生産法により作製されたブタ胚盤胞は、従来のものより細胞数が少ないため、とりわけ体外成熟法を改善する必要がある。
  • POM+PVAで体外成熟した卵子が産子への発生能を持っているかは未検討であるので、確認する必要がある。
  • 開発されたブタ胚の体外生産技術を生産現場へ普及するためには、生産現場で実施可能な非外科的胚移植技術の実用化が必要である。

具体的データ

図1 異なる培地を用いたブタ卵子の体外成熟

 

表1 異なる培地で体外成熟したブタ卵子の体外受精後の体外発生

その他

  • 研究課題名:単一基礎培地を用いたブタ胚の体外生産と非外科的胚移植による子ブタ作出技術の開発
  • 課題ID:13-05-02-*-08-04
  • 予算区分:交付金プロ/動植物工場(2101)
  • 研究期間:2002~2004年度
  • 研究担当者:吉岡耕治、鈴木千恵、岩村祥吉
  • 発表論文等:1) Suzuki et al. (2004) J. Reprod. Dev. 50:487-491.
                      2) 吉岡・鈴木 (2004) J. Reprod. Dev. 50(Suppl.):j62.