牛乳房炎由来黄色ブドウ球菌の疫学マーカーとしてのコアグラーゼ遺伝子型別の有用性

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要約

牛乳房炎由来黄色ブドウ球菌のコアグラーゼ遺伝子型別を実施した。PCR-RFLP法によるコアグラーゼ遺伝子型別法は、迅速且つ簡便で実用性が高い方法であり、調査地域に優勢な遺伝子型の存在が確認されるとともに、各遺伝子型の特性が明らかとなった。

  • キーワード:乳牛、乳房炎、黄色ブドウ球菌、遺伝子型、PCR-RFLP
  • 担当:動物衛生研・疫学研究部・環境衛生研究室、疫学研究部・臨床疫学研究室
  • 連絡先:電話0176-62-5115、電子メールでの問い合わせはこちらから。
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

黄色ブドウ球菌は牛乳房炎の起因菌として最も重要であり、わが国では本菌に起因する乳房炎の被害が最も大きい。本菌の特徴的な性状の1つとしてコアグラーゼの産生があげられる。コアグラーゼは分子量64000のタンパク質で、血漿を凝固させる作用がある。コアグラーゼ遺伝子の3'端には81bpの縦列反復配列が存在し、菌株間で反復数の違いや特定の制限酵素に対する切断部位に差が認められ、この特性を利用した遺伝子型別方法(PCR-RFLP法)が報告されている。今回、牛乳房炎から分離された黄色ブドウ球菌のコアグラーゼ遺伝子型別を実施し、特定地域での流行株の特性を解析した。

成果の内容・特徴

  • 北海道の道東地区175農場の臨床型乳房炎から分離された黄色ブドウ球菌270株は、PCRによる増幅産物の大きさにより5種類の遺伝子型(遺伝子型A~E)に区分された(図1(a))。170株(63.0%)が遺伝子型Bに分類され、遺伝子型A、C、DおよびEには、それぞれ3株、19株、8株および70株が分類された。また、PCR増幅産物の塩基配列解析の結果、遺伝子型A~Eにはそれぞれ約3個、約5個、約6個、約7個および約8個の反復配列が認められた。
  • PCR増幅産物の制限酵素(Alu I)処理(PCR-RFLP法)により15種類の遺伝子型に細分され、疫学マーカーとしての有用性が示された。遺伝子型B1に属する株が161株(59.6%)と最も多く、調査した175農場中126農場で認められ、調査地域において優勢な遺伝子型であった(図1(b))。
  • 遺伝子型AまたはBに属する173株は、少なくとも1種類以上の毒素遺伝子を保有していたが、遺伝子型C、D、Eに分類された株の90%は、検索対象とした10種類の毒素(エンテロトキシンA~E、G~Jおよびトキシックショック症候群毒素:TSST)遺伝子を保有していなかった(表1)。

成果の活用面・留意点

  • コアグラーゼ遺伝子を対象としたPCR-RFLP法は、PCR反応、制限酵素切断、電気泳動だけで実施可能であり、また、識別力が高いことから現場における分子疫学解析に有用である。
  • PCRの増幅断片をそのまま制限酵素で切断可能で作業の迅速化が図られる。

具体的データ

図1.コアグラーゼ遺伝子型別結果

 

表1.コアグラーゼ遺伝子型と毒素遺伝子保有状況との関係

その他

  • 研究課題名:乳房炎に関与する黄色ブドウ球菌の細菌学的特性の解析と生態の解明
  • 課題ID:13-01-01-03-14-03
  • 予算区分:交付金プロ/乳房炎(1130)
  • 研究期間:2001~2005年度
  • 研究担当者:勝田 賢、秦 英司、小林秀樹、河本麻理子、川嶌健司、恒光 裕、江口正志
  • 発表論文等:Katsuda et al. (2005) Vet. Microbiol. 105: 301-305.