殺虫性蛋白質Cry1Abのウシおよびブタの小腸上皮細胞への影響評価

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要約

殺虫性蛋白質Cry1Abは、ウシおよびブタの小腸上皮細胞膜に対する結合親和性が低く、細胞膜電位への影響も認められないことから、ウシおよびブタの小腸上皮細胞膜に対する傷害性はないと推察された。

背景・ねらい

Bacillus thuringiensisが産生するCry毒素は、感受性昆虫の中腸細胞上に存在する受容体と結合し、細胞膜のイオン透過性を亢進させて細胞に障害を及ぼす。一方、哺乳動物に対しては小腸上皮細胞上に受容体が存在しないため無害である考えられており、現在、この毒素はトウモロコシやワタなどの遺伝子組換え作物に利用されている。しかしながら、2000年にマウスの小腸上皮細胞に非活性型Cry毒素と結合する蛋白質が存在することが報告された。現在のところ、この結合蛋白質の同定およびその影響についての詳細は明らかにされていない。今後この毒素を利用した遺伝子組換え作物はますます普及すると予想されることから、Cry毒素に関する基礎的知見をさらに蓄積する必要がある。そこで、本課題ではCry毒素のウシおよびブタの小腸上皮細胞膜に対する結合親和性と膜電位に及ぼす影響について解析した。

成果の内容・特徴

  • Cry毒素は、B. thuringiensis serovar kurstaki HD-1のCry1Ab遺伝子を大腸菌に組み込んで発現させた組換えCry1Abを実験に使用した。
  • カイコ中腸上皮刷子縁膜小胞とウシおよびブタ小腸上皮刷子縁膜小胞へのCry1Ab結合量をウエスタンブロットにより比較した。その結果、ウシおよびブタの小腸刷子縁膜小胞への結合量はカイコの中腸上皮刷子縁膜小胞への結合量と比較して明らかに小さかった(図1)。
  • 膜電位感受性色素DiBACを用いてCry1Abがカイコ中腸上皮細胞とウシおよびブタ小腸上皮細胞の膜電位変化に及ぼす影響について解析した。その結果、カイコの中腸上皮細胞では細胞膜電位の上昇が認められたが、ウシおよびブタ小腸上皮細胞の細胞膜電位には影響を及ぼさなかった(図2)。カイコの中腸上皮細胞における細胞膜電位の上昇は、Cry1Abの作用により細胞膜のイオン透過性が亢進した結果であると考えられた。
  • 以上の成績により、Cry1Abはウシおよびブタの小腸上皮細胞膜への結合親和性が低いために、細胞膜のイオン透過性に影響を及ぼさないことが推察される。

成果の活用面・留意点

  • 遺伝子組換え作物に利用されている他のCry毒素(Cry1Ac、Cry3Bbなど)についても同様の評価を行うことが望ましい。

具体的データ

図1 Cry1Abのカイコ、ウシ、ブタの腸上皮刷子縁膜小胞への結合

 

図2.Cry1Ab添加による腸上皮細胞膜電位の変化

その他

  • 研究課題名:哺乳動物細胞に及ぼす殺虫性蛋白質Cry1Abの影響評価
  • 課題ID:13-06-03-01-17-04
  • 予算区分:交付金/協定研究
  • 研究期間:2003~2004年度
  • 研究担当者:嶋田伸明、宮本和久、吉岡 都、村田英雄
  • 発表論文等:嶋田・村田(2004)農林水産技術会議事務局研究成果第422集 33-41.