簡便で高感度なフタトゲチマダニの小型ピロプラズマ原虫保有率検査法

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要約

PCRを用いたフタトゲチマダニの小型ピロプラズマ原虫保有率検査法は、簡便で、検出感度が従来の核酸染色法に匹敵し、1匹のマダニから短時間で原虫遺伝子を検出することが可能であり、小型ピロプラズマ病発生予察に有効である。

  • キーワード:ウシ、ピロプラズマ病、フタトゲチマダニ、発生予察、PCR
  • 担当:動物衛生研・環境・常在疾病研究チーム
  • 連絡先:電話0176-62-5115、電子メールwww-niah@affrc.go.jp
  • 区分:動物衛生
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

牛の小型ピロプラズマ(小型ピロ)病対策を考える場合、放牧場における発生予察を行うことは効率的な放牧衛生検査・防疫体制を構築する上で重要である。本病を主に媒介するフタトゲチマダニの生息密度や小型ピロ原虫保有率と本病の感染・発病率との間には密接な関係があることから、発生予察にはマダニの原虫保有状況を的確に把握する必要がある。マダニの原虫保有率は、実体顕微鏡下でマダニから唾液腺を摘出し、その中にある原虫塊を染色・検出する核酸染色法(MGP染色法)により求められてきたが、本法は時間や熟練を要し普及が困難であった。そこで、マダニを破砕し、PCRによって原虫遺伝子を検出できる簡便かつ高感度な検査法の開発を試みる。

成果の内容・特徴

  • 小型ピロ原虫保有フタトゲチマダニを液体窒素で凍結後、タングステンビーズあるいはステンレスクラッシャーで物理的に破砕し、核酸抽出した試料中からPCRにより原虫主要抗原蛋白(p33)遺伝子を検出できる。本法により若ダニ、成ダニともにマダニ1匹から原虫遺伝子を検出できる(図1)。
  • 原虫保有率が異なる2群の若ダニの原虫保有率をPCR法とMGP染色法で調べたところ、MGP染色法では若ダニ1匹あたり1~16個の原虫感染腺胞が検出され、全体の原虫保有率の比較では両法は同等の値を示し(表1)、PCR法の原虫検出感度は十分に実用に耐える。
  • 放牧場で採集した牛体未寄生期のフタトゲチマダニ成ダニおよび若ダニについて、PCRを実施したところ、各個体から個別に原虫遺伝子が検出され、本法は実際に野外に適用できる。
  • 上記PCRは市販の簡易核酸抽出キット(FTAカード)を用いてさらに簡便化できる。FTAカードを用いた簡易抽出法を用いても原虫遺伝子を検出できる(図2)。本法はカード上でマダニの破砕から核酸抽出までを連続して実施できるため、PCRの前処理を大幅に省力化することができ、一連の操作時間は、従来のPCR法の約50%(7~8時間)に短縮される。同一群の感染若ダニを使って原虫保有率を比較したところ、簡易抽出PCR法では77.8%、従来のPCR法では76.1%、MGP染色法では83.3%であり、簡易抽出法の検出感度はPCR法およびMGP染色法とほぼ同等である。

成果の活用面・留意点

  • 本法は通常のPCRに必要な器具機材、市販のキットで対応できることから、全国の家畜保健衛生所等の専門機関において応用および普及が可能である。
  • 本法の応用により、様々な病原体を媒介すると考えられるマダニにおける病原微生物の媒介能を検討する有効な手法となる。

具体的データ

図1 若ダニ体内の原虫遺伝子検出

表1 MGP染色法とPCR法による若ダニの原虫保有率の比較

図2 簡易抽出法による若ダニ体内の原虫遺伝子検出

その他

  • 研究課題名:環境性・常在性疾病の診断と総合的防除技術の開発
  • 課題ID:322-g
  • 予算区分:委託プロ(ブラニチ3系)
  • 研究期間:2003~2005年度
  • 研究担当者:寺田 裕、金平克史、大田方人、神尾次彦
  • 発表論文等:1)寺田ら(2003)獣医寄生虫学会誌 2(1):56.
                      2)寺田ら(2004)獣医寄生虫学会誌 3(1):50.
                      3)寺田(2005)畜産技術 603:6-9.